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「何かあったら呼んで。俺はリビングにいるから」
私が何か言う前にドアは閉められた。優しいような冷たいような、よくわからない人だ。
「・・・さてと、荷解きしますか」
そう呟いて、スーツケースを開ける。この中はほぼ服しか入っていない。もう行くことはないだろうと思い、フランスでブランド服を買い込んだ。
・・・後先考えないことをしたら最終的に所持金が二百円になる。いい教訓になった。
スーツケースからどんどん服を取り出し、畳んで積み重ねながら考える。
よく、見ず知らずの私を住まわせてくれるなと思う。それに何か聞かれたら答えようと思ったのだが全く詮索してこない。・・・単に私に興味ないだけな気がするが。
服を全部取り出すと一番下から箱が出てくる。
あ、そうだ。旅行じゃないけど、お土産必要かなと思ってカヌレ買ったんだ。
その箱を見つめているとドアをノックする音が。
「どうぞ」
「買い物行くけど、何か・・・」
一哉さんがドアを開けながら話していたが途中で止まる。彼の視線がカヌレの箱に注がれている。
「あ、フランスで買った本場のカヌレです。よければ」
どうぞお食べくださいという気持ちで差し出すと、ほんのちょっとだけ彼の目が輝いた。
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