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少女の存在は、なに一つとして理解できない。
しかし、大学で心理学を専攻する充にとっては、その存在以上に、それを前にした人々の反応に興味を引かれていた。
ただ実際には、このホームの様子が面白いと、心の底から思っているわけではない。
理解が追いつかないときに、周りを無意識に客観視する癖が充にはあった。
自身でもそれは認識している。
建前を取り除いたとき、突然目の前に、否、目の上に人間らしきものが現れる怪談じみた光景に、少なからず自分がショックを受けているらしいことに気づいた。
わっ、と。
離れたところで、歓声のような悲鳴のような、たくさんの声が上がった。
声の方に視線を移すと、またも空中に人が浮かんでいる。
少女と似た白い、ただしこちらは短髪の、そしてやはり何も着ていない成人男性だ。だが、驚愕の理由はそれに、それだけによるものではなかった。
そのさらに向こう側にも、今度は老人が。反対側には女性が。充の真上には、少年が。
老齢の、初老の、壮年の、中年の、青年の、幼少の、
細身な、肥満気な、筋肉質な、中肉中背な、大柄な、小柄な、
コンコースの上に、売店の上に、改札の上に、掲示板の上に、階段の上に、
老若男女を問わず。駅の高い天井に、白い幽霊が溢れていく。
白髪と裸体であること以外に共通点のない人々が、次々と頭上に現れていく。
地上の人々は指差し、叫び、カメラを向け、逃げた。
白い幽霊たちはなにをするでもなく、ただ宙にぷかぷかと漂っている。
ぷかぷかと、宙を敷き詰めていく。
充は上下の人の群れを何度も見比べ、どうにか自分を納得させようとしていたが、やがてどうすることもできなくなって、地上の人間達に混じってその場を去ることにした。
気だるさと儚さと無意味さをないまぜにしたような、不可思議な存在感に追い立てられるように。
その日、充は二時限目の講義に大きく遅刻した。
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