ミチルとトオル

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 大学の講義室はその話題で持ち切りになっていた。  学内だけではない。  昼のワイドショーでは毎日欠かさない政治批判も芸能スキャンダルもそこそこに、緊急特番が組まれていた。  動画サイトではトップページに幽霊、怪奇、ホラーの文字が踊り、少ない知り合いだけのタイムラインすら奔流に飲み込まれている。  幽霊の出現は、駅だけで発生したイレギュラーではなかった。  全世界で、同時多発的に巻き起こっていたのだ。 「やっっっばいじゃん!」  前の席に座ったヨシミツが、ハンバーガーの欠片を飛ばす。  教室等の密室にファストフードを持ち込むことは充の基準ではテロ行為に該当し、また、食べながら人の眼前で大声を出すというマルチタスクは万死に値する。  だが罪人は充の数少ない学内の友人であるため、粛々と顔についたパンズと唾液をハンカチで拭くにとどめた。  ただ、ハンバーガー片手にタイトなジーンズを履いた長い足を組んで、こちらを向いている罪人に、注意喚起はしておく。 「主語がないと、なにか分からない。あと食べながら喋るべきではない」 「なにもかにも、幽霊だよ! ゆ・う・れ・い!」  どうやら聞きたいことしか耳に入らない、特殊な聴神経を持っているらしい。  しかし、ヨシミツの興奮もわからなくもなかった。  今朝から始まったこの天変地異を知らない人間は、もはやこの世界にはいないのではないだろうか。  あらゆる媒体に、幽霊が登場していた。  いわく、全人類が同時に陥った集団幻覚。  いわく、超常識的な新たな生命あるいは現象。  いわく、某国が秘密裏に開発した兵器の暴走。  いわく、地獄の扉が開かれ亡者が溢れた。  いわく、宇宙人の襲来。  ネットもテレビも新聞も、各メディアがそれぞれ好き勝手に、各々の言論を振りかざしていた。  もはや真っ当な議論などは放り投げ、センセーショナルをヒステリックにがなりたてながら街中を、墓地を、いわくのついた謎の施設を映し出す。  そのどれを見ても、肝心の幽霊の姿は写されてはいないのだが。 「ミチルはどれを推す?」  ポテトをコーラで流し込みながら、ヨシミツが聞いてきた。
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