ミチルとトオル

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 充の母親が亡くなってから、一年が過ぎようとしていた。  交通事故だった。  大学の講義中にスマートフォンで知らせを受け、充が病院に向かった時には、すでに息を引き取った後だった。  自身を支え続けてくれた人の死の衝撃は、たった一年ではなかなか拭いようがない。  いまだに現実味がないように思えるが、それでも、ようやく最近になって、時々、悲しみが押し寄せてくるようになっていた。  窓の外にはぷかぷかと人影が漂っている。  それを見て、充はふと思う。  もしあれが本当に幽霊であるのなら、母親の幽霊に、死んだ人間に会うことができるのだろうか。  自分は、それに会いたいと思うだろうか。  意思の疎通も出来そうにない、ただ浮かび、見えるだけの存在になった母親に会いたいのだろうか。  今まで見た幽霊に、身近でも芸能人でも、死んだ人間に似た顔はなかった、ように思う。  信憑性は疑問だけど、ネットの情報でも幽霊の見た目に関する言説はあまり出ていない。  充は、浮かんだ疑問の回答を保留することにする。  探そうにも手がかりなんてない。探し当てたとしても、なにができるわけでもない。  それに、死者と向き合うには、まだもう少し、時間が必要に思えた。  今は、非日常の事態に疲弊した脳を休めたい。  とりあえず、目を閉じてしまえば、どこにでも現れる幽霊にも、会うことはないだろう。  上着を脱いで、自室へ向かう。  シャワーを浴びるか悩んだが、誰にとがめられるわけでもないと、そのままベッドに横になることにした。  ただ、その前に、用を済ますためにお手洗いだけは行っておこう。  トイレのドアを開けると、洋式の便座から上半身を出した幼女がいた。 「ひゅっ」  充の口から変な息が漏れた。  幼女はそのまま天井に向かって上っていき、上の階に消えていった。
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