ミチルとトオル

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ミチルとトオル

 あ  どこかから声が漏れた。いや、誰も、なにも言っていないのかも知れない。  ただ、たしかに安芸島(あきしま)(みちる)は、内からか外からか、そのつぶやきを感じた。  宙に女の子が浮かんでいた。  ふわふわと、飛び回るのでもなく浮かんでいた。  ひどく不確からしい存在感で、真っ白な長い髪を空に流し、ゆっくりと静かに回転していた。  表情はうつろに、その身体は一糸まとわぬ姿で、波に漂うように揺れながら。  地方都市のターミナル駅。通学する学生と通勤するサラリーマンで敷き詰められたホームで、唯一、人口密度ゼロを保つ高い屋根の近く。  人々の頭上に、吊り下げるような器具もなく、白い少女が浮かんでいる。多くの人が足を止めて、上を見上げていた。  なんだあれ え、どれ あれ 全裸じゃん 撮影? やば どこだよ すげー 手品? うわ うそ、まじで 浮いてる キモ 見えないんだけど なに どういうこと 意味わかんね やばいって あれ うつんない なんで  ゆうれい?  口々に、ばらばらに、言葉が氾濫(はんらん)する。  サラリーマンが興味深く見定めようとしている。女子高生の一団がスマートフォンを(かま)えて、共有を試もうとしている。  また多くの人々は、ちらりと見上げ、驚き、あるいは不思議そうにしながら、その場を後にする。  充は宙に浮いた少女を見上げつつ、そんな駅構内の人間模様を観察していた。
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