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第1話
やたらと雲が多い夜。一華は包丁を手に持ち、自宅である一軒家のリビングに立ち尽くしていた。一華の夫である杉雄が寝室へ続く廊下から怯えた顔で私を覗き込む。
「い… 一華… もうやめてくれ…」
杉雄が指差す先には、杉雄の実母、喜美恵がどこからか血を流し泣いている。一華は虚な目で杉雄を睨みつけると、体の向きを杉雄の方に向けずんずんと突き進み、杉雄の腹を刺した。杉雄と喜美恵、2人の叫び声が鳴り響く。一華はその叫び声の中に無機質な音が混じっていると気がついた。パトカーのサイレンだ。母親を盾に寝室へ逃げ込んでいた杉雄が通報したのだろう。一華は逃げる様子を見せず、満足げな顔でパトカーの到着を待った。一華の凶行。杉雄も喜美恵も、その理由は分かりきっていた。
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