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「もしかしてお前、俺の事好き? ニサンパツぐらいならヤれる顔してんな。意外と胸も大きいし。しかたねぇから俺の女にしてやる」  何が起こったのか理解できなかった。  彼と言葉を交わすのは高校3年間で初めて。私は口をポカーンと開けていると思う。  事の発端は、なんたることはない。  自販機に飲み物を買いに行こうと思って教室を出たらそこにはたまたま堂島(どうしま)くんがいて。彼にぶつかって倒れそうになった私を支えてくれたとも言えなくはないんだけど、ともかく、くびれをがっつり掴まれて捕縛されているのが今の私の状況。  そもそもどうしてぶつかっただけで「俺の事が好き?」に至るっていうのよ?  私は世界中の罵詈雑言を浴びせてやりたい衝動にかられたが寸前のところで我慢した。だってそんな事を言ったら何されるか分からないもの。    堂島くんは良く言えばクール、悪く言えば不愛想かな。いつも怒ってるみたいで誰とも話さそうとしないから、彼には男友達すらもいない。  先生にだって平気でキレたりもするし、ドーベルマンのような獰猛な性格だから、堂島兼志(どうしまけんじ)という名前に掛けて獰犬(どうけん)なんてあだ名がついているぐらい。つまり嫌われ者ってこと。顔は……良い方だと思うんだけれど。 「あれ亜子(あこ)と獰犬じゃない?」 「ヤらせろって、嘘でしょ?」   廊下でクラスメイトの絵里(えり)美沙(みさ)が騒ぐものだから人が集まって来てしまった。  私は学校で一番浮いた男子にヤらせろって迫られて恥ずかしさも極み、放してくださいって言って彼の手を振りほどくと逃げるように駆け出したんだ。
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