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「疲れた~」 「先生、無駄に気合入ってたもんね。私お腹空き過ぎて死にそう」 「どっか寄ってく?」 「行く行く~」  私は跳び箱の上に置いたタオルをかっさらうようにして取った。いつもは校庭を使う運動部系の部活動が終わるまでには出ていたけれど、今日は長居してしまった。  どうしよう、スカートを穿いている時間はもうない。 「お前たちボール返すだけだよな?」 「えっ、あ、はいっ」 「それ俺が返しておくから、寄こせよ」 「先輩、いいです。私たちでやりますから」 「良いって言ってんだろ。それに此処、今はまだ貸切だからよ。ほら、ボール」 「は、はい。わかりました。お願いします」  堂島くんの声がした。  もしかしたら、最悪かもしれない。私が倉庫に入って行くところを見られていて、他の生徒が学校から帰る頃合いを見計らっていたのであれば……密室。  ――ニサンパツぐらいならヤれる顔だな。  先月、言われた言葉が浮かんだ。    噂では堂島くんは少年院に入っていた事があって、何でも人を半殺しにしたって話しがある。中には親がヤクザだって言う人もいて。  体育倉庫には体操用のマットが収納されていた。そして練習生時代の習慣、私の恰好はボディーラインがはっきりとわかるスキニーパンツにアンダーウエア。誕生日に屋上で無理やりキスをされた。此処でならそれだけでは済まないかもしれない。  どうしよう……。  突飛に湧いた妄想に自分の顔が火照ったのがわかる。  兎に角、制服を着なきゃ!  慌てて外に飛び出すと、そこには誰もいなかった。扉の横に雑に置かれたソフトボールと、校舎の方へ向かうユニフォームを着た数人の女子の後ろ姿があるだけで。  私の夢と同じように辺りはすっかり暗かった。夕日の残り香すらも残っていない校庭に、走る人影があった。  堂島くん……。
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