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*  恐れていた事は避けたいと願っても叶わないものだ。昼休み、スマホを覗き込んでいる絵里と美沙の横で私は身体を硬直させていた。  だって――。 「マリリン超かわいいよね~。美沙はだれ推し?」 「私は断然パル。腰の使い方とかエロ過ぎじゃない?」 「それ分かる~。ダンス、レベチだし」 「ていうか、マリリン勿体なさすぎ」  そう、主役は麻里李(まりり)。  私の練習生時代のライバル。  昨日、学校から帰りスマホを弄っているとSNSが何やら騒がしくって、それで知った。麻里李が所属している事務所を自ら辞めたらしい。  そこはK-POPのジャパン法人、韓国でダンスユニットを最も多く輩出しているエンターテイメント事務所で、つまりデビューへの最も近道。あのオーディションを受けた動機もそこだった。  しかも麻里李は3人組のユニットとしてデビューが決まりティザーで話題にもなっていたから、この時期の退社表明、何故という気持ちが溢れてならない。  たが、それよりも私は怯える心の方が勝っていた。いま絵里と観ているYouTubeが私が中学2年生の時に受けたオーディション番組だったから。 「ねえ、この子誰だっけ? パルの横で踊ってる子」 「亜子だよ。怪我して辞めた子でしょ? 事務所はそう発表してたけど、本当は不祥事だったらしいよ」 「え~、そうなんだ? 美沙詳しいね」 「私、Kポ好きだからさオーデ番組とか殆どすべて観てる。で、このマヌケ女な、オーデ受かってから天狗になって、挙句、男に走って借金でも作ったのか、何かやらかしてクビになったって一時期噂になってたな」 「へ~、可愛いのに」 「馬鹿女ってことだよ」 「だね~」  私が黒ぶち眼鏡を掛けてすっぴんで学校へ行く理由、それは事務所をクビになった後に広がったこの酷い噂の所為だ。私がもしもあのオーデに出ていた亜子だってバレたらどうなるだろう……。  絶対にバレたくない。 「お前ら何見てんの?」  そんな折に堂島くんが私たちに話し掛けてきた。彼とクラスが一緒になって私が知る限り、彼から誰かに話し掛けた記憶は無い。堂島くんは絵里のスマホを覗き込んだ。
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