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「獰犬! あ、いや、堂島くん」
絵里はわかりやすく驚いている。けれどどこか面白そう。たぶん、私が隣にいるから。
11月のあの日から私はよく絵里に揶揄われている。どうせなら数発ヤられちゃえばとか、獰犬の趣味悪すぎだよねとか、私に臆面もなくそんなことも言ってくる。
それでもどうして絵里と付き合っているのかって言われればやっぱり堂島くんみたいに浮きたくはないから。絵里はクラスで中心的な女子だし。
「これオーデのやつだよな?」
「堂島くんもこういうの観るんだ?」
「まぁな。この子たしか……」
「亜子だよ。最悪な女」
「最悪?」
「うん、男遊びが酷くって終いに借金抱えたって話し。中学生のくせしてエグイよね。援交とかもしてたらしいよ」
「へ~。だってさ亜子ちゃん」
急に話を振られて私は飛び上がりそうになった。いつもはお前呼ばわりなのにこの時はちゃん付け。堂島くんが含みのある笑みで私を見ている。冷や汗がバスタオルでふき切れないぐらいに流れそう。
「そう言えばうちにも亜子いたね」
「亜子は亜子でも顔面偏差値が月とスッポン、どう頑張っても月にはなれない方の亜子ね」
「そうそう」絵里さんがパチンと手を叩く。
嫌みを言われてムカつくところだけど、笑っている絵里と美沙を見てホッする自分がいた。二人には気付かれていなさそう。
あの映像を見られて、もしかしたらバレるのではないかと不安で堪らなかったから。
口の端から漏れる微笑を隠し切れない感じで、堂島くんが私を見つめている。なんだか嫌な予感がする。
その予感は当たった。
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