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北海道の片田舎から上京したのは4年前。
K-POP系ダンサーに憧れて、オーディションを受けたのが中学2年生のこと。まさか受かるとは思ってもいなかったけど、私は前だけを見つめそれを目指していたんだ。
事務所が用意したわらしべ長者スタイルの宿舎で仲良くなったのは同い年の麻里李だった。境遇が一緒だったから。つまり地方から出て来た田舎者ってこと。
華やいだ東京にうつつを抜かした私に罰が当たったのだと思う。
「麻里李、今日帰りにナンパされちゃった」
「亜子は可愛いからね」
「でへっ、で、こんどデートする約束しちゃったの」
「亜子?」
麻里李の悲し気な視線を思い出す。練習生なんだから、駄目だよって小声で言った声は聞こえなかったことにして。
あの日、雨が降っていた。忘れもしない。東京の雨は故郷のねっとりとした陰気な雨音とは随分違う。音符のように弾んでいて、素敵なことが起こる吉兆のように聞こえてならなかった。
彼は高校2年生だった。中学生の私から見れば大人に見えて、それだけで私は浮かれたんだと思う。
水族館に誘われた初デート。普段の3倍鏡を覗いていたら待ち合わせの時間が迫ってしまった。マンションのエレベーターはなかなか来ない。1階で止まっていた。
なんで来ないのよってちょっとイライラしながらも、私は踊る波紋のように非常階段を駆け下りたんだ。
階段で転んだ私が病院に運ばれたのはその直後だった。
アキレス腱を切ったのは、私の所為だ。
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