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龍族はみんな変態だって!
メグムが、さらっと告げた、その言葉。
──変態。
離宮の侍女たちから、年に一、二回、近辺に出没したと聞いたアレか。いきなり、着物の前をバサッと開いては、全裸を見せつけるという噂のヤツか。
瑛は恐る恐る、聞き返す。
「……メグムさん。変態って、あの、変態?」
「はい。あの、変態です」
サラリと言って、涼しげに笑い、メグムは続ける。
「ですから、いずれ、龍姫も立派に、」
「ちょっと、待って!」
瑛は言葉を遮ると、次の質問をぶつけた。
「じゃあ、メグムさんも、変態なの?」
「もちろん」
もちろん?
「トキも? シンも?」
それにも、メグムは肯定した。うっとりとする微笑みを添えて。
「龍族で大人になるということは、変態であるということです」
あたし、これから、変態になるの……
立派な変態に……
ということは、いつか自分も、着物の前をバッサーと開けたりするのか。もしかして、世の中に出没するという『変態』は、みんな、龍の一族だったのか。つまり、自分は変態の中の変態姫なのか。
瑛がぐるぐる考えていると、メグムが「龍姫」と、呼んだ。
「え?」
「話は以上です。お戻りになられて結構ですよ」
「あ、うん」
瑛は、ふらふらとメグムの部屋を出た。
部屋の扉を後ろ手に閉めて、しばらく呆然としていたが、はっと顔を上げると、走り出す。
道中、女官からシンの居場所を聞き出し、彼の部屋を訪ねた。彼は、書き物をしているところだった。
「どうしたんだ?」
向けられた笑顔に、瑛は、たちまちほっとした。シンの元へ歩きながら、話し始める。
「ねぇ、シン。龍族って大人になると、変態なの?」
「何、言ってんだよ」
やだなぁと、シンは、さわやかな笑みで言う。
よかった、そうだよね。違うよね。そう思えたのは一瞬。
「当たり前だろ」
続いた言葉に、瑛は途中でくるりと体を反転し、扉へ戻って行く。
「瑛ちゃん? どうした?」
「うん、ありがと。突然、ごめん」
早口で答え、再び、瑛は廊下を走り出した。
次は誰に聞くべきか。
ノボルか、ガリュウか、御前か。そんなことを考えていると、その後ろ姿が見えた。
「トキ!」
視線の先で、トキが振り返る。
瑛は駆け寄り、息を整える間も惜しんで、口を開く。
「トキは、変、態、なの?」
言った途端、トキの目が険しくなる。眉間にギュウっと、しわが寄った。その直後、瑛の頭に、ぽふんとゲンコツが落とされた。
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