序章

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序章

 つつぅっと、頬に何かの液体が流れる感覚で、眠りから目が覚めた。  目が覚めた途端に、体に異変を感じる。  頭、痛い。それに、体が重くて起き上がれない。・・・・・・私、何やっていたんだっけ?  恐る恐る目を開ける。 「な、・・・・・・なにこれ・・・・・・?」  ──思わず、絶句した。  なぜなら・・・・・・。    *** 「なんですって⁉」  図らずしも、大声で叫んでしまった。しまったと思いながら水野(みずの) (わたる)は口を押さえ、定食屋内を見回した。  運のいいことに、客は自分の他に一人もおらず、店員すらもこちらを見ていない。頭上のスピーカーから流れる古い歌謡曲だけが、淡々と店内に音を残し続けている。 「そんな・・・・・・絶対に安全だという話じゃなかったんですか。だから俺も、この近くの家に妹住まわせてるってのに」  抗議するものの、電話口の向こうにいる上司、築本(つきもと)はいっさい焦ることなく続けた。 「仕方ないだろう。起きたことは起きたことだ。君にはなんとしてでも、の進行を止めてもらわねばならん」  妙にのんびりとした口調で、築本は命じた。 「頼んだぞ、航くん。奴の恐怖からミソギ町の人々を守れるのは、君だけだ」  それだけ言うと、唐突に電話は切れた。細かい雑音だけが耳に残った。 「ふざけんな・・・・・・あの無責任野郎。自分は机にかじりついて書類眺めてるだけだってのに、勝手に無茶な要求するんじゃねえよ。実際に動くのは俺なんだぞ」  悪態をつきながら、航は吐き捨てた。頭に牛の糞が詰まった阿呆ども。彼らを形容する言葉は、そのひとことに尽きる。  現に今も、築本らの無責任さのせいで、必ずや安全を確保すると誓ったこのミソギ町に新たな脅威がもたらされようとしている。  まだ誰も知らないだけだ。の存在と、その恐ろしさを。
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