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終章
私──ミソギ町から遠く離れた地域に住むOL、鈴木裕美は、重たい頭をもたげてなんとか体を起こした。
頭も四肢も胴体も、とにかく全身が痛い。どうしてこんなにも体中が痛むのか──。
そう思いながら目を開き、そして眼前の光景に息を呑んだ。
身長5メートルはあろうかという、緑色の巨体。長い毛に覆われた全身の各所からは細長い触手のようなものが伸び、私の体を強く締め付けている。
骨が軋むような音が内側から響いてくる。冷水を浴びせられたような恐怖を覚えて必死に藻掻くが、口を塞がれ声が出ない。
「んー、んー!」
手足をばたつかせ、全力で緑の毛むくじゃらな『それ』を蹴りつける。しかし『それ』は怯む様子も見せず、ゆっくりと、しかし確実に私を締め付けていった。
ぬるりとした何かが、頭上から降ってきた。
半透明な薄荷色の液体だ。溶けるようにして肌に潜り込んだその液体は、触れるたびに火傷するほどの熱を帯びていく。
だんだん全身が液体によって固められていくのを自覚する。薄荷色の液体が、やがて視界を覆い尽くし、脳髄までをも若葉の色に染め上げていく。
「化け物・・・・・・」
息絶える前、僅かに絞り出した一言。それを聞く者は、誰もいない。
【完】
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