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高熱が出る
小林 律子は小さい頃から良く熱を出す子供だった。
原因はよくわからない。扁桃腺が大きいとか、生まれつき体が弱いとか、そういう理由ではないと病院でも何度も検査を行って医師には言われていた。
あえて言えば学校でお友達とうまくお話しできなかったとか、忘れ物をしてしまったとか、精神的なストレスが多いようだった。
学校で、律子が気まずくなるようなことが起って、大抵3日後くらいになると夜中に熱を出すのだった。医師の話によると、その日のうちに熱を出さないのは、体の中の免疫が熱を出さないように闘っているからだそうだ。
ただ、3日くらい戦った後の免疫の死骸が、体外に排泄されるときに高熱がでるようだ。いわゆる体の浄化作用によるものだと言う説明ではあるが、実際に熱が出ている律子はたまったものではない。
律子が夜中に熱を出すと夜間診療の小児科のある施設へ父親の正人が車を出して律子を抱き上げ、車の中にいる母親に渡し、車で10分ほどかかる夜間診療の施設まで律子を運ぶのだった。
38度台でも結構つらいと思うのだが、律子の熱は必ず40度を超えてしまい、翌日まで放っては置けない状態になるからなのだ。
毎日学校で何があったかを母親の竹子はしつこいくらい律子に聞いていた。学校から帰った後は、律子の母親への報告タイムだ。
でも、ストレスにならないように、竹子は、毎日律子の好きなおやつを用意して、楽しく学校の事を話せるように雰囲気作りにも気を配っていた。
律子は小学校4年生になっていた。
学校でのストレスもだいぶ減ったのか、竹子が話を聞いているのも良いのかもしれない。ほぼ半年熱を出さなかった。それで少し油断をしていたのだろうか。竹子も毎日ゆっくりおやつを食べながら律子の話を聞くことをだんだんやめていた。
なんにせよ、毎日というのは、子供が心配なこともあるので何とか続けてはいたが、母親にとってもとても大変なことでもあったのだ。
それでも、夕ご飯の準備をしながら律子の話を聞こうとは努めていた。
律子も4年生になって、学校であったことを何でも母親に話すもの少し億劫にもなっていた。学校での失敗、例えば給食当番で配膳の時におかずをこぼしてしまったとか、授業で使う予定だったコンパスを忘れてしまったとか。
そのように友達が絡まずに自分の不注意で起こした失敗については特に親に話したくはなかった。
ある夜、律子は自分が妙に熱いことに気づいた。しかし、夜中の事であり、意識も朦朧としていたので、特に起きて親を起こそうとも思わなかった。
実は3日ほど前に視聴覚室で授業がある事を忘れて、遅れて入っていった時、クラスの気の強い女子に
「律子って、何やってもとろいよね。」
と、言われてしまった。このところ、色々な小さな学校での失敗が続いていた律子は
『私ってとろいのかな‥』
と、ちょっと胸がズキンと傷ついた。
母の竹子には話していなかったので、竹子が特に夜中の律子の部屋を気にしている様子もなかった。
父の正人はその夜は出張で家にいなかった。
その時、律子の熱は41度を超えていた。自分で起き上がることが出来なかったのも無理はない。これまでだったら、夜中のうちに解熱剤などが処方され、熱を下げることができていたのに、高熱のまま朝まで時間が過ぎてしまった。
朝ごはんに起きてこない律子を起こしに、竹子が来たときには律子は意識を失い、熱を測ると42度を超えていた。
竹子はあわてて救急車を呼び、律子は救急搬送された。
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