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自分で言うのも何だが、この俺──雪見酒冬一郎は、結構モテる。
幼稚園時代はいつも複数の女の子に追い掛け回されていたし、小・中学時代に告白された回数とバレンタインに貰った洋菓子の数は、両手の指だけじゃ足りないくらいだ。勿論、彼女がいた事だってある。……誰とも長続きはしなかったけれども。
今日は高校生になって最初のバレンタインデー。
普段からそれなりに仲良くしている女子は数人いる。その内二、三人くらいは、義理であっても何かしらくれるだろう。実は前々から俺の事が好きだったという女子だって、絶対一人はいるはずだ。小・中学時代がそうだったんだから間違いない。
さて、一体何人からチョコレートなりクッキーなりカップケーキなりをプレゼントされるかな? 楽しみ過ぎて授業に集中出来なくなりそうだ!
……。
…………。
………………。
馬鹿な……放課後になってもゼロだと……!?
いや待て、つい五分程前に帰りのSHRが終わったばかりで、まだまだ教室内は慌ただしい。これからだ、これから。
部活動に向かう友達らに挨拶し、俺は探し物や机の中を整頓するフリをしながら教室に残った。
……。
…………。
………………。
三〇分後、教室には俺以外誰もいなくなっていた。何てこったい!
仕方なく、俺は一人帰路に就いた。
未だに信じられない。悪夢でも見ているんじゃないのか。ゼロだぞ、ゼロ。ダイエット飲料か!
まあ、一ミリも興味ないブスから貰ったところで全く嬉しくないし、お返しになんか金を使いたくないけれどさ。
途中、中学時代からの友達で別の高校に通っている大山田からメッセージが届いた。これからクラスの友達らとカラオケに行くらしく、良かったら一緒に来ないかという内容だった。
ちょっと迷ったけれど、俺は用事があると断ってしまった。あまりにもショックが大き過ぎて、楽しめる気がしなかったからだ。
自宅の最寄り駅で降り、表通りから住宅街に入った頃だった。
「あの、雪見酒さん、ですよね」
後ろから誰かに呼び止められ、俺は歩みを止めて振り返った。
そこにいたのは、長いおさげ髪の、小柄でそこそこ可愛い女の子だった。うん、だいたい七〇点くらいかな。着ている学生服は、かつて俺が通っていた中学校の制服だ。この辺りに住んでいる子だろうか。
「そうだけど……何か」
「あの……これ」
女の子は、右手に持っていたオシャレなデザインの小さな紙袋を俺に差し出した。
「えと、これは?」
「受け止めてください!」
「……俺にプレゼントって事かな?」
「はい!」
「……中見てもいい?」
「はい!」
俺は紙袋を受け取ると、入っていた物を取り出した。それは薄い水色の包装紙と紺色のリボンでラッピングされている、小さな箱だった。
こ、これって……。
「チョコレートです!」
キ……キタアァァァァ!!
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