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「あたし、マヤっていいます。雪見酒さんの事は、二年前からずっと気になっていました」 「二年前?」 「はい。あたしが小五で、雪見酒さんが中二の時です」  すっかり浮かれそうになっていた俺だったが、素朴な疑問が湧いた。 「えっと……どうして俺を?」  三学年分の差があるのだから、中学では一緒になっていない。それじゃあきっかけは何だったのか、結構気になる。 「一目惚れ、ってやつです」マヤははにかんだように答えた。「雪見酒さんの容姿がどストライクで。声を聞いたらもっと好きになっちゃって」  そう言われたのは初めてじゃないけれど、何だか照れるな。  ……ん? 何処で一目惚れされたんだ?  俺が新たな疑問を口にする前に、マヤが力強い口調で、 「あの、ですからそれ、受け止めてください!」 「あ、ああ、有難う! 戴くよ」  マヤの顔にパアッと笑みが広がった。いい笑顔。可愛さがちょっと増したぞ。七五点。 「今年は誰からも貰えそうになかったからさ、嬉しいよ」 「絶対に一人で食べてくださいね。あと、他の誰にも見せないでください」 「え?」  勿論、一口だって誰かにやるつもりはない。他の誰にも見せるなって、知られるのは恥ずかしいって事だろうか。 「ああ、わかったよ」俺は頷いた。「ところで、マヤちゃんはどの辺に住んでいるんだい? ホワイトデーにお返しを──」 「いりません」  え、いらないの? まあ金が掛からなくていいけれど……何か今の口調、冷たくなかったか? 「お返しは結構です」 「そ、そう?」 「それじゃあこれで失礼します」  マヤは素っ気なく言って小さく頭を下げた。 「え、あ──」  踵を返し、足早に去って行くマヤの背中を、俺はポカンと見送る事しか出来なかった。  ……何か変だったぞ。  途中までは明るく感じが良かったのに、最後は機嫌が悪そうだった。怒ってたのか?   だとしたら何故? 俺、何か失礼な事言ったか?  ていうか、一目惚れだの受け止めてくださいだのって割に、付き合ってくださいとか、連絡先を教えてくださいだとかは言われなかったな。チョコレートと一緒に手紙が入っているとか?  ……まあいい、とりあえず帰ろう。  いまいちスッキリしないまま、小さな紙袋を手に、俺は再び歩き出した。
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