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帰宅後、俺は自室に戻るとスクールバッグを放り、マヤから貰ったチョコレートの箱を取り出すと、勉強机の上にそっと置いた。
……何だか神々しく感じるのは、唯一貰えたプレゼントだからか?
貰えていた物が貰えなくなるのって、結構寂しいものなんだな。
まったく、高校の女子共はどれだけ節穴なんだ?
「さて、と……」
俺は椅子に腰を下ろすと、ラッピングの紺色のリボンを解き、薄い水色の包装紙を丁寧に剥がした。別に再利用するわけじゃないけれど、大切に扱いたかった。箱自体は味気ないシンプルな焦茶色で、チョコレートの色よりも濃そうだな、なんてぼんやり思った。
そういえば手紙の類は入っていないな。まあいいか。
さあて……中身はどんなかなっ? ハート型? トリュフ? デコレーションは?
俺は左手で箱を押さえ、右手でゆっくりと蓋を開けた。
……は?
「何だよ……これ」
俺は我が目を疑った。
箱の中にあったのは……確かにチョコレートだったんだけれど……
「グッチャグチャじゃねえか!!」
まるで小さい子供が適当に粘土を捏ねくり回して放置したかのような代物が、箱いっぱいに詰まっていやがる! 紙とかを敷かずに直に! おいおい……しかも完全に固まってねえ! 何かドロッとしてんぞ!?
「何考えてんだ!?」
俺はただのチョコレートの塊を呆然と見やった。マヤとかいうあの中学生……ちょっとヤバくねえか!?
「クソッ!」
俺は勉強机を拳で叩き、ただのチョコレートの塊を箱ごと端へ払った。こんな物貰うくらいだったら、誰からも貰えないままの方がまだマシだった!
マヤの顔を思い出す。あの時はそこそこ可愛い、七五点だと思ったけれど、人間性がコレじゃあ一〇点はマイナスだな!
「六五点女が!」
俺がそう悪態を吐いた時だった。
コポポポポ、と、水面が泡立つような音が聞こえた──それもどういうわけか、チョコレートの塊の方から。
……何だ?
「本当に酷い人ね」
唐突に、くぐもったような声が聞こえてきた──これまたどういうわけか、チョコレートの塊の方から。
「わたしの妹にも点数を付けるなんて」
……何だ? 何なんだよ?
俺は恐る恐るチョコレートの塊を覗き込み──驚きと恐怖の声を上げずにはいられなかった。
顔だ! チョコレートの塊の表面に、同じ茶色をした顔がある!
小さな目玉は俺をキッと睨み付けている! 目玉とは対照的に大きな鼻もある! そしてその下の半開きになった分厚い唇からは大きな歯が見える!
いや待て……この顔、何処かで見覚えが──
「わたしの時は二二点だったわよね」
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