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高木のその言葉によって、まるで潮が引くようにすべての音が遠ざかっていった。あんなにうるさかった蝉の声も、夏休みの住宅街にありがちな生活音のすべてが、この六畳一間を残して鳴りを潜めた。寒々しさすら感じる静けさの中で、俺はただ手の平に滲む汗を握り締めていた。
「本気で言ってるのか?」
そう問う俺の声は掠れている。何度唇を舐めても、乾き切った舌では湿らせることができない。
「見てもらえればわかる」
高木は正座した膝の上に拳をつき、真っ直ぐに頭を下げた。
「頼む、富樫。手を貸してくれ」
浮遊感が俺を襲う。
視界が回りそうだった。
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