空蝉

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 沈黙がやけに煩い。蝉の声は、枝の擦れる音は、鳥の囀りはどこへ行ってしまったのだろう。俺と高木の掘る音だけが辺りに響き、それは永遠のようにすら感じられる時間だった。  俺は、ふと、目を上げた。高木の向こうに人影が見える。身を屈め、持ち上げ、放り投げる。機械的に繰り返されるその動作は、俺たちがしているものと全く同じであった。  いつの間にか沢山の人がいた。皆、地面に穴を掘っている。誰ひとり声を発する者はなく、ただ黙々と、ゼンマイ仕掛けのように同じ動作を繰り返す。それは風に揺れる稲穂の動きにも似て、荒れた海原のように、起き上がっては屈み、起き上がっては屈みと連鎖していく。  不思議と俺に警戒心はなく、ただ、他にも同じ罪を背負った者がいるという安堵だけが、俺の心を慰めていた。
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