空蝉

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***  俺は助手席に座っていた。迫っては通り過ぎる「落石注意」の標識を見て、何をどう注意すればいいんだと考えた記憶がある。道は昨日までの雨で濡れていて、強風に毟り取られた枝葉がアスファルトに貼り付いていた。 「   」  その時、高木が何と言ったのか、俺は覚えていない。きっとたわいもない話だった。ありふれた日常からちょっと飛び出して行った旅行中の、ありふれた雑談。俺たちは旅先で感じる非日常に興奮していた。  轟音は突然ではなかった。先行する低い唸りは、音というよりも震動だった。コツン、コツンと小石が車体に当たる音がした。高木は異変に気付くなりハンドルを切ったけれど、細い山道に逃げ場なんてなかった。  視界が黒く染まる直前、土石流が俺たちを呑み込んだ。
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