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耀司は、次第に鹿乃子の家を訪れる回数が増え、気づけば部屋に住み着くようになった。
「鹿乃子んちからのほうが職場近いねん!泊めて!」と、軽く泊まったあとから頻繁に泊まるようになり、4月の半ばには完全に住み着いていた。まだ引越しから1か月半ほどだった。
恋人とは言えど、自分の家では無いのに、耀司は次々と荷物を持ってきたから、ワンルームに備え付けてあるクローゼットはぎゅうぎゅうになり、物が溢れた。
全く知らない地に住んで1ヶ月半、まだ職場と家の往復だけでへろへろな鹿乃子に、耀司が住み着くことは生活のリズムを作るのに邪魔だったが、鹿乃子は全く気づいていなかった。
わたしは「仕事から帰っても耀司がいる!心強い!」って気持ちでいっぱいだった。
慣れない土地、溢れかえる人、慣れない電車通勤に、言葉だって地元と全く違う、
それは思うよりずっとわたしを疲れさせたし不安にした。
マンションから駅までの道に幾つあるんだろうというくらい美容室とカフェがある賑わった街は夜にも救急車や人の笑い声がして、田舎で育ったわたしにはストレスだった。
だから耀司がいてくれることはわたしにとって大きな安らぎだった。
安らぎの「はず」だった。
飲み会の多い会社だった。
その日も飲み会で、違う部署の人に挨拶をしたり、話に相槌を打ったりお酌をしたり、とっても疲れていた。
振動しながら携帯が鳴る。耀司だ。
席を立ち電話に出ると、
「あかん、お前との生活は無理や」
急な言葉に血の気が引いた。
「え?なんで?」
「お前、流し台に朝ごはんの食器置きっぱなしやし、空のペットボトルも置いてあるやん。
ありえへん。こんな雑な女の子今まで見たことない!」
たしかに今朝は余裕がなくて帰ってきたら洗うつもりでとりあえず流し台に食器を置いたし、空のペットボトルは明日のゴミの日に出すために洗うつもりだった。
でも、今日が初めてで、部屋を不潔にしていた訳ではない。
それを耀司はずっとわたしが散らかしているかのように責め立てた。
「お前、飲み会とか断れねぇの?それとも浮気でもしてるか知らねぇけどさ!はぁ、、」
わざとらしいため息が胸に刺さって苦しくて、心臓が大きな音を立てる。
浮気なんてできるほどまだ知り合いもいないし、入社したての鹿乃子は飲み会を断りづらかった。
「まぁ、もう俺はお前とは結婚しないわ!」
そう言って耀司は乱暴に電話を切った。
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