春のはじまり

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わたしは田舎の生まれだ。 どのくらい田舎かって言ったら、高校の時に通学に使っていた路線のバスが一日に三回だけだった。一時間に一本すらない。 最寄り駅まで徒歩1時間。最早最寄りかわからない。 そんな田舎で育ったわたしはIKEAに行くのが初めてだった。 「わ!いっぱいある!これ可愛い!」 「まずベッドからやな」 「うん、寝れないと困るし」 白い、シンプルなベッドを選ぶと耀司が番号を撮影する。 「何してるの?」 「後で必要やから。番号でいる物持って行かなきゃやし」 「そっかぁ」 番号で要る物を探す、田舎のニトリや電気屋のイメージしかなかった。 全部可愛い!おしゃれ! この家具で新しい生活が始まる! わたしの頭はそんなことしかなかったのだ。 閉店も近づき、急ぎ足で必要なものを取りに行く。 IKEAを、甘く見ていた。 近所のホームセンターよりずっとずっと広いところにたくさん箱やら資材があり、そこからみつける。 次第に耀司が苛立つ。 「ああ、、!なんでもっと余裕持って行動しないねん!」 そう言われても、わたしはこんなの知らなかったのだ。 「マットレス、、、これやな。次。」 そう言って耀司が選んだものはマットレスより遥かに薄く見えた。 「え、、、?」 「何?何も動けんくせに口出さんといて!急いでんねん!」 「はい、、、」 そんなふうに言われるがままお会計へ向かい、7万近いお金が飛ぶ。 必要な物だから仕方ないとわたしは自分に言い聞かせて、耀司の車に乗った。 「あー!鹿乃子!俺もうお前とは買い物来ないわ。悪いけど。」 耀司との将来の為に引越した初日に言われた言葉に胸が痛む。 そして痛んだのは胸だけでなく、お腹もだった。 ショックと痛みと疲れで泣きそうになりながら、でも顔に出さないように平静を装う。 車内には洋楽のロックが流れる。 更なる悲劇が襲う。 「鹿乃子、お前んち、どの道?」 「え?」 「ナビの通り来たけどないねんや」 「えっと、、、」 わたしも今日来たばかりの街で、家の向かいにあるコンビニにしか行っていない。 周辺の道なんか一個もわからない。 「お前、自分の家もわからんの?もう嫌や!限界!」 「ごめんなさい、、、」 「じゃなくて道聞いてんねん、、ったく!」 ぐるぐると似た通りを何本も通り、やっとマンションの前に着く。 「はぁ、、、車置いてくるからこれとこれ持って部屋開けといて。」 わたしは例のマットレスを運び込んだり、エレベーターを何度か往復して部屋に家具を入れた。 「はぁ、、、つかれた。」 カチッとタバコに火をつける耀司。 「座る物ないからマットレス開けよか」 そう言って開封すると、 やっぱりマットレスじゃなく、マットレスにプラスする厚手のマットだった。 「なんやねんもうー」 こっちが言いたい。でも、 「これでも寝られるし、今日は大丈夫」そう言って、これ以上耀司が怒らないように気を遣った。 そうやって、宥めて宥めて、空気が落ち着くと、 「鹿乃子、服脱いで」 予感は的中。あんなに不機嫌だったのに耀司は体を求めてきた。 「ごめん、、今日生理で。」 「じゃあ上だけ脱いで、口でして?」 腹痛でふらふらな体で白い胸を曝け出して、耀司のそれを口に咥えた。吐きそうだった。 なんとか堪えて奉仕すると、耀司は口の中で射精した。 ただでさえ重い生理、疲れ、そんな時のそれはあまりに不快だが、なんとか吐かないよう堪えた。 すっきりしたように耀司はわたしを抱きしめて、また煙草を吸った。 時計はもう21時を回っていた。
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