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射るようなするどい目。
あの目に魅せられたのだ。
今はもうあの目を見ることはできないが、虜にされてしまった心は解放されることはなく、真直を一層の深みへと沈めて行く。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
けれど、確かに進んでいる関係。
そんなじれったい恋愛なんて絶対に御免だと思っていたけれど、今では後退しなければそれでいいとさえ思っている。
後にも先にも、二度とこんなに人を愛することはないだろう……などと。
まだまだ17歳だ。
そこまで言い切ることを未来の自分が見たら、あまりの青さに悶死するかもしれない。
だとしても今17歳の真直は、これ以上人を愛することができたとしたら死んでしまうかもしれないと思う程に、苦しくて───幸せだ。
「梨味だな、やっぱ」
「こないだも食ってたね」
「限定だから食いだめしとかないと」
地央はこと飲食物に関して目新しいものを好む傾向があり、新製品やら期間限定やらと名のつくものよくを口にする。
その中でたまにドハマりすることがあり、以前はピンク色のケースに入ったグレープフルーツ味のタブレット菓子であった。
そしてこのところハマッているのは、ヤンチャな子供のキャラクターが印刷されたパッケージで、中にカキ氷を充填した棒状のアイスキャンディだ。
「食う?」
「うん」
何気なく返事をした真直に、地央はチラと流し目をよこす。
地央は中心視野に欠損があり、残された視界で対象物を見る。だからその流し目に他意のないことは、真直とて重々承知している。
だがしかし。
頭では解っていても、目に飛び込んでくるのは美麗な流し目で、色っぽい目尻にはどうしても胸がさざめく。
「あー」
真直へ向けて、地央の手の中の氷菓子が傾斜をかけはじめるのに、口をあけて氷菓子の接近を迎えようとした。
が。
「?」
目の前に差しだされるはずのそれは、弧を描いて地央の口元に運ばれる。
シャクリと、小気味のいい音とともに地央に齧られる氷菓子を目にし、『あーげない』的な、たまに地央が仕掛けてくる子供のような嫌がらせかと肩をすくめ、ベッドの側面に背中をもたせかけた時───
「…っん」
唇に与えられる冷感と、柔らかい感触。
乳白色の肌と長い睫がすぐ目の前にあるのならばこの感触は、という事実を脳内で処理しているその瞬間にも、ほの冷たいのに真直を熱くするそれが、唇の合わせ目から、氷のような塊を押し込んできた。
「…ふ……ん」
梨の香りが鼻腔を抜けるその間にも、その甘い氷菓子と真直の熱をかき混ぜるように蠢く舌が、本来の熱を取り戻し、真直のそれと絡み合う。
クチュクチュという音とともに掻き回された唾液と甘い液体が交じり合って、嚥下しきれず流れ落ちていく。
「…は…ぁ…黒川……もっと…食う?」
「地央さんのが、食いたい」
ボトムを押し上げる地央の欲をそっと上からなぞると、氷菓子で冷やされ、いつも以上に赤み増した唇から、悩ましげな息が漏れこぼれる。
「……ダメ……俺が、食うから」
挑むように、まっすぐにこちらを見上げながら、少しずつ体をずらした地央が、白い指先で真直の猛りを一撫でしたあと、唇に負けないくらい赤い舌をチロを這わせた。
「これは、俺だけの、限定、だよな?」
そんな可愛い言葉と、媚びるような上目遣いに一層硬なったソレを卑猥な赤に含まれた、その瞬間。
「……ぁっ…」
あっけなく解放される熱と───意識。
「はぁぁあ……っかしいと思ったんだよなぁ……」
二回目だ。
もう、慌てて下着の中を確認するようなこともせず、ただただ達観した心持ちで溜息をこぼした。
「まっすぐこっち見るとかありえない情況のときに気づくべきなんだよ、ほんとに」
虚しい一人言が、一層真直を虚しくさせる。
どんだけ欲求不満なんだ……。
「はあー」
それにしても生々しい感触だった。
下着を汚したまま、再び目を閉じて先ほどのリアルな記憶を反芻すれば、半端な放出だったらしく再び疼き始めた。
どうせなら。
まだ暖かい己のぬめりを塗りつけて扱きながら、すっかり一人遊びの上手になってしまった自分に、真直はまた一つ大きな溜息をついた。
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