ストッキング・ラバーズ

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「今日こそは正体を暴いてやるわ!」  毎晩、会社帰りに現れる変質者――わたしのマンションまでこっそりと着いてくる、気味の悪いストーカー。  その男に走り寄り、頭にかぶっていた黒いストッキングを全力で引き破る。すると、思いのほか好みの顔が現れた。 「どうしてあなたが……!?」  嘘でしょ!?  なんと、その男は知り合いも知り合い、付き合いはじめたばかりの彼氏だったのだ!  彼は頬を赤らめてうつむいた。 「ずっときみと一緒にいたかったんだけど、プライベートな時間に顔を見られるのに抵抗があって」  小声でつぶやく恥ずかしがり屋の彼。  彼は内気なのに美形すぎて、これまでトラブルに巻き込まれることが多かったらしい。 「気持ちはわかるわ……。顔じゃなくて心を好きになってほしいものね」  わたしも性格は地味なのに、やけに色っぽい表情をしているとよく言われる。でも、顔がよくていいことなんて、今までひとつもなかった。  わたしたちは会社の同期。そんなお互いの境遇への共感が恋に変わるのは早かった。  初恋同士で、すべてが未経験のわたしたち。先日やっと告白したものの、なかなかそれ以上前に進めなかった。  彼の本音を聞けた今が、ふたりの関係を変えるチャンスかもしれない。 「わたしももうごまかさないわ。今夜は、うちに泊まっていって……」  自分の頭にかぶった白いストッキングを脱ぎ捨てて、わたしは愛しい恋人を抱きしめた。 【完】
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