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塾の出入口から制服姿の優莉香が現れた。夕暮れ時の彼女はとても綺麗で、鼻水を垂らして泣いていた女の子はどこにもいない。そんな当たり前の事実に今更気づく。
「お迎えにあがりました」
「えっ、何で?」
「帰りに、アイスを奢らせていただきます」
「マジで何? ていうか寒くない?」
コンビニで棒アイスを購入し、途中、雅史さんが俺を助けてくれた場所を通り過ぎ、公園にある東屋のテーブルに座った。
上着のフードをかぶったり、取ったり落ち着かない様子で、優莉香は呟く。
「どうしたの、今日?」
「たまには兄らしいことやってみようとかと」
昨晩の優莉香と両親が言い争う声は、自室の俺にも届いていた。でもまさか俺のためだったなんて。
優莉香のそういう部分が好きだ。
彼女が再婚直後に泣き叫んだとき、まるで自分の不満を代弁して貰ったように感じたことを思い出す。
――そして今度も、喧嘩してくれたんだよな。衝突を避けてばかりの俺の代わりに。
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