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その人は門雅史さんと名乗った。
手土産は僕の大好きなチョコ団子。あらかじめ母が教えておいたのだな、と子供でもわかる。
ぎこちない僕ら二人をよそに「ふみふみコンビね~」とはしゃぐ母の眩い笑顔を前にして、僕は思った。
負けた。
この人が、母には必要なのだ。
僕がまだ手伝えない野菜切りも、ガスボンベのセットも、土鍋から皿に取り分けるのも、マサフミならやれる。
「おっ、美味しいなぁ。さすが皐さん」
「それ市販の鍋スープなの」
「高級品じゃないですか。僕ん家はいつも、白だしですよ」
「うちもいつもはそうよ。でも今日は、失敗したくなかったから」
「じゃあ今度はうちで鍋をやりましょう。そしてその次は、皐さんと文哉君の『いつもの』を食べさせてくれませんか?」
「いいけど。別に普通の味よ?」
「普通がいちばんですよ」
「それは、本当に、その通り!」
僕は手も足も出なかった。せいぜい「お鍋ばっかりイヤだ!」と愚図るのが関の山である。
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