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一年後、僕の名前は門文哉に変わった。
僕が小学三年生のことである。
猫のショコラと、マサフミと、そしてマサフミの娘で僕より一つ年下の優莉香。
家族になった日、四人でファミレスに向かう道中、母は僕にこっそり囁いた。
「お願い事、叶ったね。文哉お兄ちゃん」
僕は絶句した。
数秒後に言い返そうとしたが、目の前にいる母が――毎日同じパーカーに同じジーンズしか履かなかった母のワンピース姿が――やけに綺麗に見えて、僕は文句を呑み込んで「うん」とだけ頷く。
これから僕は気遣いの人になるのだ。聞き分けのいい息子として、一足先にオトナになるのだ。
そう決意した矢先、とんでもない大声が僕の鼓膜をつんざいた。
「コイツらと家族になるなんてぜええったいヤダああパパのバカあああ!!」
優莉香の絶叫は、母とマサフミのみならず通行人全員の度肝を抜いた。
涙と鼻水まみれでオムライスを頬張る優莉香の顔は、汚くて、小憎たらしくて、僕の母を困らせる悪魔に見えた。
こんなのが、僕の妹。
……理想と全然違う。
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