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2.
優莉香の異議申し立てにより、僕らの共同生活の開始日は先送りされた。
子供二人が小学校を卒業するまでは別々に暮らす。
但し、週末は可能なかぎり一緒に過ごすこと。
「優莉香ちゃんがああまで厭がるとは思わなかったわぁ」と母は帰宅するや否やプシュッと缶ビールを開け、弱音を吐いた。
僕だって、命の恩人が父親になってもいいかと問われると話は別だった。僕はあんな風にみっともない真似をしないだけだ。
「文哉も苗字変えるの、早かったかな」
「僕はちょうどよかったよ」
「そう?」
クラスの渉君も苗字が変わったばかりで、悪目立ちせずに済んだので。
「週末、優莉香の好きなお菓子を作っておくっていうのはどうかな?」
マサフミのチョコ団子は、あざとかったけど、確かに僕の心を掴んだことを思い出したのだ。食べ物のチカラは偉大である。
「それ、すごくいいアイディアね」
「僕も手伝う」
母は僕の頭をくしゃくしゃに撫でて「文哉、ありがとう」と何度も言い、猫のショコラは喉を鳴らした。
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