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その週末。
優莉香は家にあがるなり「お腹空いてない」と言い、手作りケーキに見向きもしない。
マサフミの申し訳なさそうな顔と、母の悲しい目、ショコラの大あくび。
僕は空気に耐えきれず、半ば無理矢理に優莉香をゲームに誘った。
子供部屋に招かれた優莉香は少しだけその仏頂面を和らげ、「ゲームって、何があるの?」と訊いた。
「ポケモンとマリオカートと……」
「私、そういうの出来ない。ボードゲームはないの?」
「オセロしかないよ」
「じゃあ、それやろ」
優莉香は白をやりたがった。好きなアニメキャラクターのテーマカラーなのだそうだ。
「あのさぁ、もうちょっとあの二人を応援してやったら?」と、盤面に石を置きながら、さりげなく切り出す。
「イヤ。私のママは、ママだけだもん」
僕が置いたばかりの黒が、あっという間に白くひっくり返された。
成程。そうきたか。
すでに母親のポジションに収まった相手がいるから、うちの母を認めたくないという視点は、僕にはなかった。
僕は自分の父親を知らないので。
「じゃあさ、兄弟はいたの?」
「いない。一人っ子だもん」
「それなら本当のお兄ちゃんはいない訳だから、僕がお兄ちゃんでも構わないよね?」
「イヤ」
優莉香が角を取った。
せっかく相手の理屈に合わせたのに、感情論によってあっさり却下されてしまった。
「ていうかウザい。お兄ちゃん面しないで」
みるみる、盤面が白く染まる。
いい加減にしろよ!
……とは言わない。女子相手に勢い任せで言った軽口は、ずっとネチネチ言われるのだとクラスの女子から学んでいる。
「はいはい、わかったよ」
「はい、は一回でしょ。学校で注意されないの?」
「はい」
……いや。クラスの女子より面倒臭い!
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