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オセロは優莉香の圧勝だった。
その後、僕らの作ったケーキを優莉香は残さずぺろりと食べた。
「これ、僕も手伝ったんだよ」
「ふうん」
僕らのやり取りを大人二人がハラハラと見守る。「子供の気持ちが第一だから」と強がる割に、実のところ、彼らは不安でいっぱいなのだ。
珈琲カップを持つ母の手は震えており、マサフミなんか、シャツに珈琲染みを作っている。
「ねえ、プリキュアのケーキも作れる?」
「僕、そのアニメよく知らない」
「じゃあ、デコレーションは私がやるから、ケーキはお兄ちゃんが作って」
「あ。はいはい、わかった。いいよ」
「はい、は一回」
「はい」
「次来たときね。約束ね。絶対」
「うん」
胸がドキドキして、僕はミルクを盛大に零してしまった。それを汚れたシャツのマサフミが布巾で拭いてくれ、母はおずおずと「濡れなかった?」と優莉香に尋ねた。
「うん。私は平気だけどお兄ちゃんの服がヤバいよ」
二回も言った!
優莉香は気づいていなかったけど、母も、マサフミも、僕も、全員がニヤけるのを押し殺したせいで、変な表情になってしまっていた。
ゲームに敗けて勝負に勝った気分だ。
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