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 小学五年生の春、僕ら四人と一匹は一緒に暮らし始めた。  優莉香が同居にOKを出し、進級のタイミングで引っ越したのだ。さいわい僕は転校せずに済んだのだが。 「あれ、フミヤンの妹?」  渉君が窓から校庭を指差す。優莉香が同じ学校にいるなんて変な気分だ。  彼女は一人きりで、当所(あてどころ)無さそうにトボトボと歩いてゆく。 「転校して来たばかりだもんなぁ……って、フミヤン、どこ行くんだよ」  優莉香は飼育小屋の前に座り込んでおり、僕に気づくと「何か用?」と鼻水を拭った。 「別に。学校で話しかけちゃ駄目?」 「駄目じゃないけど」  優莉香は金網に指を突っ込んでこっちこっちと誘うが、五匹のうさぎは五匹とも素知らぬ顔だ。  彼女は指を下ろし、ため息を吐いた。その目は午後の日差しにきらりと光る。  妹が学校生活に悩んで泣いているとき、兄はどういう風に振る舞うべきなのだろう。母なら、僕の頭を撫でたり、ぎゅっと抱き締めてくれたりする。  僕は優莉香に手を伸ばしてみて、行きどころに迷い、引っ込めて、やっぱり触れてみようと思って、勇気が出ずにポケットに仕舞った。 「お兄ちゃん、さっきから何やってんの?」 「優莉香が泣いてるから、どうしようかと思って」 「ハンカチを貸してくれるとかじゃないの?」 「今日、ハンカチ持ってくるの忘れた」 「あーあ」 「あーあ、って……」  優莉香はふにゃっと笑った。 「お兄ちゃんってパパに似てる」 「雅史さんに? どこが?」 「色々気を遣ってくれるけど、空回るとこ」  全然嬉しくない類似点である。  でも実父に似ているということは、実の兄妹(きょうだい)らしくなってきたのかもしれない。
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