拝み屋さんとタカムラさん

2/9
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
 で、このときエンちゃんの両親もそのその場にいて怪我をしてしまい職務に就けず、仕方ないからエンちゃんが代理になっているというわけ。  エンちゃんが代理になったと同時に、どこからともなく現れた変わった若者。生身の人間であることは確かで、しかし人手不足の地獄では猫の手も借りたいほど。そこで若者に働いてもらうことにしたのだ。  それがいけなかった。なにしろ変わり者すぎてやりたい放題なのだ。  地獄の某所に畑を作り耕したり、賽の河原でテントを張ってキャンプをしてみたかと思えば、三途の川で釣りをしてみたり。血の池で卵をゆでれば極寒地獄の氷でかき氷を作る。これではまともな鬼たちのストレスがたまる一方だった。  裁判所の全員揃ったので赤鬼が言った。 「開廷します」  裁判長のエンちゃんの一段下に若者は立っている。変人ではあるが文武に秀でていて仕事はデキる。  これまで薄暗闇の中、ゆらゆら揺れるろうそくの炎が亡者たちの姿を照らしていたこともあって、地獄らしくてそれなりに亡者らはビビっていた。しかし今ではシャンデリアの華やぐ明かりのせいか誰もビビらない。おまけに閻魔大王の代理が幼女では亡者たちにナメられてもおかしくない。  しかもこれまで一名ずつ下していた裁判を数名まとめて下している。これでは亡者にはよくない。なんせ、 「仲間がいるから平気じゃん」  といった気持ちになって、地獄に対しての畏怖が失われていた。 老若男女の亡者たちが、名札を下げてエンちゃんに向かってずらりと並んでいる。ふと青鬼が、 「オーディション会場みたい」  と懐かしそうな眼差しを亡者らに向けた。 「青鬼、きみは生前タレントだったの?」  緑鬼が小声で訊いた。 「まぁそんなとこね」 「青鬼、緑鬼、私語は慎むように」  赤鬼が注意した。  亡者たちはエンちゃんをガン見している。 皆揃って同じ反応だ。閻魔様って幼女なの?  
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!