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「せいしゅくにしてくだちゃい!!」
再びエンちゃんが言ったところで誰も言うことをきかない。完全無視である。
「だいたいさぁ、あんたいったい何なの?」
「そうだよ。鬼でもないくせに」
老若男女の亡者らが奇抜な恰好の若者に詰め寄っている。若者は亡者のお怒りの理由を知ってか知らずかニタニタしているだけで名乗らない。
そのうちエンちゃんがぐずり出した。
「みんなタカムラのことばかりかまって、エンのことむちちゅるのでちゅうか?」
小さい身体を左右にくねくね、手足をバタバタさせている。
子守のモー子さんがエンちゃんをあやして、亡者共に向かって言った。
「あんたたち死人の分際で可愛い閻魔様を泣かせるなんて! 罪を増やすわよ! モゥ!」
亡者たちは一斉に後ろに引いた。モー子さんが大きくて怖かったのだ。
「う、う、牛が喋っとる……」
御老人は呆然とモー子さんを見つめていた。モー子さんは亡者どもを見て、
「このお若い御方こそ、かの有名な小野篁殿なのです!」
と、それはそれは大きな声で言った。しかし――。
「オノノタカムラってだれ?」
「YouTuber?」
「どんな動画撮ってんの?」
亡者らはワイワイ、ガヤガヤ。そんな亡者の中で御老人だけが、
「本当ですか!? あなたがかの有名な小野篁殿ですか!?」
ぐいっと篁に近付く。御老人の双眸は眩いばかりに輝いている。
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