拝み屋さんとタカムラさん

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「六道珍皇寺の井戸から落ちて、地獄へ着きお勤めをされた、文武に秀でていた天才、秀才、朝廷のお役人でもあった、少々変わり者だったという、あの小野篁殿なんですか!?」  とまあ早口で喋った御老人。 「変人だったということで、その恰好も理解できますな」  ひとりで納得し盛り上がっている。 「いやぁ、そんなに褒められると照れ臭いなぁ」  と頭を掻いている。  他の亡者たちにはさっぱり何のことだかわからない。御老人は自分の名札を篁に見せ、 「わしは鈴木茂吉(もきち)という。生前は中学で教鞭をとっていたんだ。そうそう、せっかくお会いできたのだ。サインをもらえんかね」 「いいですよ」  軽いノリで篁は受けて、立派な筆遣いで鈴木氏の亡者の白装束の背にサインを書いた。こうなるとどういうわけか篁が何者かなどどうでもいい他の亡者も、サインをねだりはじめた。地獄の裁判所はいつの間にやら小野篁のサイン会場になってしまった。  鬼トリオは困惑した。赤鬼はエンちゃんはどうしているのか、と段上を見上げたらモー子さんの腕の中で寝息をたてていた。  いかん。いくら幼子でも閻魔様だ。ここはきっちり仕事をしてもらわねばならない。そこで赤鬼は大きな声で言った。 「サイン欲しい人は一列に並んで下さい。閻魔様! お仕事ですよ! 青鬼は亡者を誘導して下さい。緑鬼は審判が下った人たちに切符を渡して下さい」 テキパキと指示を出す赤鬼。 「さすが赤鬼さんですね」  モー子さんが感心していた。  エンちゃんはモー子さんの膝に乗ったままで、亡者たちの生前VTRをチェックした。篁はサインだけしている。 「モーコしゃんのおひざだいしゅき」  と言いながら目の前の亡者とVTRの人物に間違いがないか確認。 「あーあー。あなたはイイコトのほうがしゅくないのでジゴクのキップあげまちゅね」 「えっ。そんなはずないわ。ボランティアもしてたのよぉ。おかしいわ!!」 「あー。もんくいうとつゅみがふえまちゅよ。じゃあつゅぎのひと」 「え~!? そんな~!?」  亡者は緑鬼に背を押され外へ、外では道案内係の鬼が亡者をそれぞれの行き先まで連れてゆく。
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