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言葉にしなければ伝わらない。
どんなにわかりやすいことでも、自分ではない相手に何も言わずにわかってもらえていると思うのはあまりにも傲慢だ。
そう、そして。
言葉はいつも不用意だった。
どうしてあのとき言ってしまったのか。
言わずにいれば、あのままずっと隠しておけば──違う未来だってあったかもしれないのに。
「俺さ、…」
吹き抜ける風が教室のカーテンを揺らしていた。
黄色く陽に焼けた薄い布が膨らんで、視界を遮る。
誰もいない校舎。
土曜日、ふたりだけの教室。
頬に当たる風は冷たくて、秋の枯葉の匂いがした。
窓を開ける必要なんかどこにもなかったのに。
なぜ窓を開けていたのだろう。
「好きなんだよ。おまえのこと」
「…え?」
思い切って顔を上げ、しっかりと目を見て言った。
逸らしては駄目、逸らしては駄目だ。
ちゃんと目を見て話すのだ。
そうすれば、もしかしたら──
「それ冗談?」
笑って彼はそう言った。
その笑顔が胸に突き刺さる。心臓を抉られたように息が出来なくなった。
淡い期待はもうどこにもない。
「ミヤ?」
だから──
「冗談だよ、あたりまえじゃん?」
同じようにそう笑うしかなかった。
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