記憶に残る告白

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 転校前にする事は実は終わっていない。必ずやり遂げたい事が一つだけ残っていた。俺は先生との話が終わると学校を出て、電車に乗った。  電車には同じように学校帰りの学生がたくさん乗っていて、おしゃべりを楽しんでいる子もいて騒がしい。俺はイヤホンを取り出して耳につけ、音楽アプリを起動しようとする。 「日向」  目を上げると辰巳が立っていた。あのまま美少女と帰っていたと思っていたが、彼は1人で目の前にいる。 「日向、帰り?」 「うん、お疲れ」  俺はイヤホンをはずし、辰巳と向き合った。斜めにいる女の子がチラチラ見ているのが気になった。『分かる。かっこいいよな。でも背が高くて眉目秀麗だからライバル多いぞ』と確実にブーメランになることを心の中で言った。  見られてる当人は気にした風もなく俺の隣に立つと、顔を覗き込んできた。その仕草にドキッとする。 「今から、暇?」 「うん」 「じゃあちょっと寄り道付き合ってよ」 「いいよ」 「ありがとう」  辰巳は満足そうに笑う。その笑顔がもう見られなくなると思うと悲しかった。  俺と辰巳は家が近く、園児の頃から知り合っていた。小学まで一緒に帰る仲だったが、中学に入ってから変わった。辰巳の人気が出て、自然と距離ができる。当時は辰巳が褒められると誇らしいと共に俺の知らない彼がいることが不満だった。これが恋だと気づいたのはいつだったろうか。  最寄駅で降りると辰巳は駅前のコンビニに寄って、レジへと向かう。 「新製品の肉まんが食べたかったんだ。これ2つください」 真っ黒な見た目のものを指差した。 「それだけ?」 「うん、これだけ」  注文を受けた女性は顔を赤らめながらパタパタと肉まんを用意し始めた。昨日、俺が同じものを頼んだ時と大違いだった。被害妄想でなければ『こんなもの頼む人いたんだ』みたいな目で見られた記憶がある。まぁ世の中そんなもんか。 「ありがとうございました!またお越しくださいませ!」 彼女は満面の笑顔で肉まんが入ったビニール袋を辰巳に渡した。それに会釈で応える。
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