記憶に残る告白

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 聞き慣れた話し声が聞こえ、ふとそちらに目を向けた。数人に囲まれながら、整った顔立ちの男が目を細めて楽しそうに笑っている。寒いのか少し耳が赤くなっている。 「稲田、まだ話終わってないぞ」 「あ、すみません」  俺、稲田日向(ひなた)は注意を目の前の先生へと向き直した。職員室は暖房の効きがよく、先生はジャケットを脱いでいた。コートを着てマフラーをしている俺とまるで季節感が違う。 「転校の手続きはある程度終わったから、後は皆に話すだけだな」 「皆には話さなくて良いです。恥ずかしいですし」 「でも黙っていなくなるのはおかしいだろ」 「友達にはちゃんと言いますよ」  俺はもうすぐ転校する。急に決められた父親の転勤に母がついていくか迷っていたからだ。ついて行きたいけれど一人息子を残していけない。幼い頃から過ごした土地を離れるのは寂しいが、俺は両親と一緒に発つことを選んだ。 「そうか、ならいいかな。じゃあこれでやる事は終わりかな」 先生は少し納得がいっていない様子で首をひねらしていた。 「辰巳(たつみ)くん!」 女子特有の明るい声が聞こえ、もう一度窓の外を見た。学年一の美少女が辰巳の腕に手を絡ませている。お似合いの2人だ。ジクリと胸に針で刺されたような痛みを感じる。 「また、あいつか。本当にモテモテだな」 「……そうですね」 「俺も学生時代、あれぐらいモテたかった!」 「辰巳が転校したら騒動になりそうですね」 先生は目を丸くして、俺の頭を少し撫でた。 「稲田が居なくなって寂しい奴もちゃんといるよ。俺も寂しい。ちゃんと日直してくれるのも お前ぐらいだしな」 そんなことはないだろうに。先生は冗談まじりに言った。 「稲田の良さをちゃんと見ている人はいるよ」 「先生の良さを見つけてた人も居るかもしれないですね」 先生は嬉しそうに両手で俺の頭を撫でまわした後、ハグをした。距離が近くて後で訴えられないか心配だが、優しい良い先生だった。 「ありがとう。あと少しよろしくな」 「よろしくお願いします」 俺はもう一度寒そうな窓の外に目を向けると、辰巳と目が合った気がしてすぐに目を離した。
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