一話 ドラゴンテイムを迎えるトルルク

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一話 ドラゴンテイムを迎えるトルルク

 トルルクは、トロンカ族が長シガルロンドの子供。国でいう王族にあたる。  黒い髪に笹の様にとがった耳。青い目の竜人の子供。変な縁が繋がらないように、どこの言葉でもない名前を付ける、変わった種族。生まれたばかりの赤ん坊と産声を聞いて、何となく思い浮かんだトルルクと名付けられた。  それはさておき。  ベルセルク。またの名を竜人は、狂戦士の民族とも呼ばれる戦闘を尊ぶ種族。ドラゴンに騎乗し、世界を駆けめぐる自由な種族である。  トルルクが生を受けた種族であり、トルルクは産まれながらにして耳が尖っていた。瞳は母親譲りの紅蓮色。首は太く、7歳にして筋肉がつき始め、喧嘩をすれば同年代なら負けなしの腕っ節の強さが自慢。将来は長に似た屈強で勇猛な、ドラゴンを駆る戦士になるだろうと期待されている。  戦闘術や弓術を既に父である長から学ぶ神童である。    そんな愛くるしいトルルクが何をしているのかというと。  シガルロンドはトロンカ族が長。トルルクの父親で、右目から頬に掛けて大きな切り傷がある。雷鳴羊の毛皮の腰当を腰に巻く筋骨隆々の2メートルを超える大男だ。筋肉が剥き出しの上半身に軽胸鎧を直接纏うのは、ベルセルクの伝統が故に。  これぞベルセルク! という、ベルセルクそのものな風貌。一族一番の力自慢で今のところ一族で唯一の竜騎士(ドラグーン)だ。 「良いか、トルルク。ドラゴンは序列に生きる生き物だ。ボスとして相応しい態度を見せつければ、お前をボスとして認め、良き友となる」  木の幹の様に太い腕の、力こぶを盛り上がらせてシガルロンドは檻を抱えていた。檻は大きく、頑丈だ。ドラゴンが体当たりしても壊れず、ドラゴンが火を吹いても溶けることなんてない。  成人一人入れそうな檻は小刻みに揺れている。 「だが反対に、ドラゴンに舐められれば殺しにくるぞ。嬉しいだろ? お前が育てた卵から産まれたお前の雛が、お前の喉を食い千切りに来るんだ」 「早く見たいな、父ちゃん!」 「ほれ、お披露目だ」  どしんと檻を地面に降ろす。  檻の中には、黒いドラゴンが入っていた。生後3日。生まれたてのドラゴンだ。まだ翼がしわしわで、四肢も小さい。けれど、既に大型犬並みのサイズがある。  生まれたての雛ドラゴンは、シガルロンドを見て牙を剥く。  そして檻越しにトルルクを見つけて、飛び掛かった。檻に阻まれて、襲うことは適わなかったが、檻はビリビリ震えた。トルルクを殺そうとする殺意は本物だ。 「サンダーホーン。飛竜の中でも一際素早く、強靱な翼を持つ。放電も驚異だが、何よりも恐ろしいのは稲妻を纏って雷と共に飛んでくること、だな。成体になれば目で追えん。初めての卵がサンダーホーンとはツイてるな」 「綺麗な体……! 強そう」  「がはは。ドラゴンは美しかろう? 美しくて恐ろしい! 主人として相応しいチカラを見せつけて手懐けるんだ」 「任せてよ、父さん!」  トルルクは、初めてのドラゴンテイムを迎えていた。  待ち望んだ、ドラゴンテイムに興奮が収まらない。七年間、ずっと待ち望んでいたのだ。  初めて、ドラゴンを見たあの日から――。 ※雷鳴羊  天裂山脈に住まう羊に似た家畜。雷鳴のような声で鳴くが、名前の由来は、強靭な脚から繰り出す稲妻が如き走りから。毛はもこもこで保温性に優れ軽くて丈夫が故に、トロンカ族はマントに加工し鎧の上に羽織る。もっとも、ベルセルクは皮下脂肪が豊富で筋肉による保温性もあって零度近い環境でも平気なのだが。ファッションの為に着飾るに過ぎない。
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