一話 ドラゴンテイムを迎えるトルルク

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 トルルクは、かつて日本人であった。ドラゴンが好きな日本人。  ドラゴンに乗ってみたかった日本人。だけれど、事故で死んでしまって気が付けば、トルルクとして生を受けていた。    最初の光景は、今でも忘れない。 「Ras el kvel! ras ras!」 「Ras thy cverk。 Ghya z lof」  良く分からない言語が最初に聞いた音だ。  髭もじゃのシガルロンドが、厳つい顔をくしゃくしゃにして笑っていた気がするが、それはどうでもいいこと。  髭もじゃよりも、麗しの母カンカムよりも。    白銀の鱗が、目に映った。  夕焼けの光を受けて、白銀の鱗が橙色に光り輝く光景。空高くある筈の雲が、遥か眼下で流れる。  風を切り、青空を自由に突き進む、強い翼の羽ばたき  優美な角は、見事な曲線を描いていて、野性的でカッコ良い。  鰐の様な顔は、己が飛ぶ先を真っ直ぐに見据えている。 「おぎゃ! おぎゃあ!」  夢にまで見たドラゴンの背に乗っている。  その日、トルルクは。  ドラゴンの背で、初めての涙を流した。    どうやら、トルルクはベルセルク種族。他種族からは竜人と称される狩猟民族に転生したらしかった。  筋肉質な肉体と笹状の耳が外見的特徴で、ベルセルクパンツというアラビアンなパンツに似た民族衣装の身を纏い上半身は露出させる文化を営む。国に属さず、ヒト種の生存圏から離れた秘境に集落を作り暮らす、自由な種族。  弓術を嗜み、剣を学ぶその文化と生態は、蛮族やバイキングという表現が相応しいのだが、何よりもベルセルクを竜人たらしめる最大の特徴は。 ――ドラゴンと共にある文化を営むことだ。  ベルセルクの子供は、7歳になると一度目の通過儀礼が課される。  ドラゴンの卵を世話し孵化させること、そして『序列』のない雛ドラゴンを手懐けること。これを経て、ベルセルクは一度目の元服を迎える。一例の儀式をドラゴンテイムと言う。  ドラゴンテイムを終えると部族の見習いと認められて、狩りの仕方やより専門的なドラゴンの生態を戦士たちから教わるようになる。二度目の通過儀礼で、野生のドラゴンを狩猟するか、調伏させると晴れて成人になり、晴れて戦士の仲間入りだ。これをドラゴンハントと呼ぶ。ベルセルク社会で、成人したと見倣され、タトゥーを彫ることを許される。  二度目の通過儀礼は、人によって変わるらしい。トルルクの父、シガルロンドは10歳の時にこれを終えたそうな。  ともかく、トルルクは自分だけのドラゴンを手に入れるために、一生懸命ドラゴンについて集落の戦士たちから学びドラゴンテイムに備えた。  だから。 「来い! 俺が主人だ!」  ドラゴンテイムに失敗する訳にはいかない。  トルルクは気合を入れて、ドラゴンと真正面から睨み合った。
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