一話 ドラゴンテイムを迎えるトルルク

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「ドラゴン、特に飛竜(ワイバーン)の卵は外見が殆ど変わらないから孵ってみるまで何のドラゴンの卵か分からない」  とは、他のベルセルクたちの言葉だ。  ダチョウの様な卵で模様は無い。取り敢えず、孵化するまで温めたり転がしたりして、お世話をしていたのだが、何の卵かはまったく分からなかった。だから、サンダーホーンという、飛竜(ワイバーン)の上位種が当たる何ぞ夢にも思わなかった。 「トルルク。我が息子よ、覚悟は出来てるか?」  シガルロンドは、建前として息子に問い掛けるが、微塵も心配をしていなかった。  なぜならば、心配する要素がなかったからだ。  父の問いに、トルルクは獰猛な笑みを浮かべて吠える。 「当り前だよ、父ちゃん!」  むしろ、サンダーホーンを引いた自分の運を祝いたい気分だ。  ビビってないと言えば嘘になるが、やっとドラゴンと触れ合える。 「宜しい。じゃ、楽しいドラゴンテイムの時間だ。掟に従って手出しはせん。皆も俺も見物はするが……お前がやりたいようにやると良い」  ドラゴンテイムは一族にとって大事な通過儀礼であり、娯楽だ。集落に今いるすべてのベルセルクたちが、トルルクを見ている。そして、。  シガルロンドは大きく息を吸い。 「ドラゴンテイムを始める!」  ドラゴンの檻を開け放った。 「くぎゃあ!!」  飛び掛かって来るドラゴンを、トルルクは余裕をもって躱す。 「サンダーホーンは動きが速い分、小回りが苦手。教わった通りだ!」  戦士たちから教わったドラゴンの生態を思い返しながら、トルルクはドラゴンの雛と相対する。 「ぐおおおおおおおお!」  片手をサンダーホーンの雛の前に突き出すと、トルルクは大声をあげて威嚇した。  サンダーホーンは好戦的なドラゴンだ。生体になっても、せいぜい体長3メートルいくかいかないかの小柄なドラゴンながら、身の丈が倍以上もある他のドラゴンに襲いかかる獰猛な種。加えて、赤ん坊の時から防衛本能で獰猛且つ好戦的なドラゴンの特性も相まって、たとえ生後間もないひなであろうと普通に人間を殺そうとしてくる。  だから、威嚇した。  トルルクが、単なる餌じゃなく対等な存在であると分からせるために。 「ーー!? ぎゃうっ!」 「そうだ。俺は獲物じゃないぞ」  カチ、カチカチ。カチ、カチカチとリッカーと呼ばれる、調教用の道具を打ち鳴らす。リッキング音を再現し、ドラゴンと交流しやすくするための道具だ。ドラゴンはリッキング音と呼ばれる、牙を打ち鳴らす音のリズムで感情を表現する。  ドラゴンが威嚇する時のリズムで鳴らせば。 「ぐるるるる! カチ、カチカチ。カチ、カチカチ」  案の定乗ってくる。 「がお!」  吠え声と一緒に、一歩力強く足を踏み出す。  すると、サンダーホーンの雛は驚き、半歩後ずさった。しかし、すぐに、うなり声をあげてとびかかってくる。今度は受け止めて、トルルクはサンダーホーンを投げ飛ばした。 「「「おおおおおお」」」  ギャラリーがどよめく。  しかし、それくらいで音を上げるサンダーホーンではない。雛とはいえ世界の陸海空すべてに覇を唱えるドラゴンの子供として、サンダーホーンは引くことなく果敢にトルルクに殺意を向けるのだ。 「カチカチカチ、カチカチカチッ。カチカチカチ、カチカチカチ!」  不満とか怒りのリズムで歯を鳴らすサンダーホーンの雛。 「ふふっ」  だが、サンダーホーンの雛の苛立ちと怒りを一身に受けてもトルルクは怯えるどころか、むしろ笑みを浮かべる始末。 「さあ踊ろうよ、お姫さん」  七歳のトルルクと、産まれて間もないドラゴンの雛。    両者、異なる種族の雛によるガチンコバトルーー勃発!      
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