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静けさの中で
恋愛は、物語の構成に似ていると、ふと思った。
寝起きの静かな空間。目覚めて最初に視界に映ったのは、付き合って五年ほどになる彼女だ。いつもは眼鏡をかけているが、今は眠っているため眼鏡も外れている。普段見れない、と言うと語弊があるが、よりプライベートに近い顔を見れるというのは付き合っているものの特権だろう。
出会いは大学時代。創作物のように劇的な出会いがあったわけでもなく、お互いが並外れて特殊な境遇、と言うわけでもない。俺の両親は共に教師、彼女の両親はサラリーマンと専業主婦。今の時代では至極ありふれた境遇である。たまたま同じ大学に入り、たまたま同じサークルに所属し、何となく趣味が合い、だがその時は彼女が運命の相手だ! とばかりに今の自分からは想像出来ないほど頑張って口説き、当初は根負けして付き合ってもらった、と言う状況だ。
デートスポットの研究、エスコートの仕方、口説き文句の研究など、今にして思えば随分と熱心だったな、と思い返す事も多いが、同時に青かったな、と言う感想。青春が何故青いのか、それは若々しい木々に例えられているのではないかと思う。咲き誇る花のように華やかなものではないが、その瑞々しさと力強さ、懸命に空へと伸びていこうとする力強さ。それが青さの正体であり、今の自分からは離れかけているもの。
二年も経てばときめきも落ち着き、彼女との喧嘩が増えたこともあった。もっと外にデートに行きたい彼女と、外に出たくない俺。同じゲームをやっているはずなのに育成方針の違いで揉めたなど。ある意味気を使っていた部分が徐々になくなり、その人が今まで培ってきた真の人格が表に出て来る時期。他の人の話を聞いているとこの時期がいつ来るかはカップルそれぞれによりけり、と言う感じはするが、ここに来て初めて、付き合っている相手と先々まで見据えられるか、と言うのが分かるような気がする。まぁ、世の中を見ると出会って三か月で結婚したカップルもいるし、そのままずっとラブラブ夫婦のままいる事例もあるそうだが、個人的に凄いなとは思いつつ真似できる気はしない。
だが結論として、俺はそろそろ彼女と結婚して、次のステップに進みたいと考えている。いや、既に同棲して2年が経過している。結婚したからと言ってこの状態の何が変わるかと言えば変わらないが、区切りとして結婚をする、と言うのは一つの物語を納める上で重要な結末になるのだろう、と思う。
「……ん」
身じろぎする彼女の頬に口づけを落とす。
喧嘩もしたものの、なんだかんだ同棲して2年。それなりにルールを決め、生活としてはうまく回っている。長すぎるエピローグがもたらすものは感動の喪失だ。そう考えれば、そろそろこのだれてきてしまったエピローグには決着を付けなければなるまい。
立場が変われば、物語が変わる。いつできるかは分からないが、今度は親として、子供の物語を見守りつつ、自身の物語をつづっていきたいものだ。
ー了ー
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