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序章 3話目 意識改革と決意
うっすらと重い瞼を持ち上げると、煌びやかな天蓋の装飾と上質な布団が目に入る。
状況を確認しようと周りを見渡すと泣き疲れたのか目を腫らしながら私の手を握り、椅子に座ったまま眠るレティシアが居た。
「(何もずっと手を握っていなくてもいいものを……)」
そう思いながらも嬉しい反面、余程この“ルリ”という使用人は彼女に気に入られていたのだと推測する。
「(まぁ、一介の使用人がここまで気に入られるのは何かしら理由がありそうだな……。)」
そう思いながら、今後調べることを脳内で整理してまとめていく。
まずは雇用開始時は何時からなのか、どのような仕事を担当しており、この屋敷のどこまでの情報を管理しているのか、ひいては人間関係まで。
とにかくやることが多い。
そう思っていた矢先、ふと気づいた。
「(そういえば、豪華な部屋だとは思っていたが、これはレティシアの部屋では……?)」
清潔かつ白基調の美しい家具、上質な手触りのベットシーツや布団、天蓋まで。
これは彼女の部屋で間違いないだろう。
しかし、それなら大問題である。
いや彼女の部屋でなくても大問題には変わりないのだが。
仕えている主人が椅子で眠り、使用人が自分の仕える主人のベッドで眠っている。
それも“高慢”なお嬢様のお部屋で。
「(終わった、社会的な死が待ってるわ)」
私としては屋敷から追い出されても一向に構わない。むしろBADENDの元凶から離れられるし、巻き添いにならないのなら嬉しい。
だが今の自分の所持金や貯めているお金、質屋に売れるもの、友人や家族の有無。
何もわからない状態で手負いの自分が放り出されたら間違いなく路頭に迷い、最悪死ぬ。
「(身体もまだ痛むし……本調子では無いからなぁ……)」
「ん……」
悩んでいた時、小さな声がレティシアから聞こえた。少し身動ぎをして起きた少女とバッチリと目が合う。
「「……………………」」
少女は普段からぱっちりとした目を惜しげも無く見開き、驚いているようだった。
「あ……」
レティシアが何かを言ったのが聞き取れた。
「……何か、申されましたか?」
「…………っ!!!目が覚めたようで良かったわね!!!ずっと眠っているだなんて、こんな怠け者な使用人は聞いたことがないわ!!!!」
甲高い声で続けられるマシンガントークに痛む頭を押さえながら、とりあえず謝罪を言う。
「この度は申し訳ありませんでした。ですが、お嬢様にお怪我が見当たらないことが、私としては喜ばしい限りです。」
つらつらと謝罪と安心した事を言っていたら、レティシアがどんどん目に涙を溜めていく。
なにか、まずいことを言っただろうが……。
思考を巡らせるがそんな失言に覚えはない。
「自分の心配をしなさいよ……こっちがどんな思いで……」
小さな声で告げられたのは、私の心配。
「心配してくださって、ありがとうございます。」
感謝を伝えながら微笑むと、レティシアは顔を背けながらなにか呟いている。
「(もしかしたら認識を改める必要がありそうかな……)」
「心配はしてないけど……あなたが居ないと困る……というか……」
「(やっぱりこの少女、素直に想いを伝えるのが苦手なだけでは?)」
思ったより可愛らしい少女である事に驚きを感じながら、これは物語ではなく現実なのだと自分に言い聞かせた。
「(絶対にこの少女も私も……生き延びなければ)」
目的がはっきりした今、あとは回復して行動するのみ。
これは思ったより長期戦になりそうだ。
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