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序章 1話目 夢と事件
僅かな眩しさと暖かさを感じる。
(…心地良い夢…)
ふと、そよ風が通り抜ける感覚で重い瞼をあげると、そこには緑豊かな自然と美しく咲き誇る薔薇園があった。
「…ルリ!!こんな所で呆けていないで向こうに行くわよ!!」
美しい風景に見惚れていると、ふと自分の名前を呼ばれ驚く。
「…はい?」
声のした方を振り向くと、己の名を呼んだのは愛読している小説のキャラクターと寸分違わない少女だった。
陶器のような白い肌と艶やかで見た者の目を惹き付けるような美しい深紅の長い髪。
つり目の大きな瞳は吸い込まれそうな程の深い緋色。
1度会えば嫌でも忘れないような美しい少女は、私が愛読している小説に出てくる悪役令嬢のレティシア・ローズで間違いない。
小説に出てくるキャラの中で唯一好きになれなかったキャラクターである。
「何をぼさっとしているのよ!!早く!!」
急かされているという現実は分かるものの、頭を占めるのは疑問が多いのは仕方ないだろう。
(随分とよくできた夢だな…)
私はレティシアに手を引かれるまま、のんびりとそんなことを考える。
そのまま手を引かれ、美しい薔薇園を歩いていた時だった。
遠くから銃声の音と人の悲鳴が聞こえた。
「…銃声?」
思わず声に出た時には目の前が真っ暗になっていた。
「!?!?」
肺に息苦しさと熱が襲いかかり、熱は次第に痛みに変わっていく。
(…あぁ、私は…肺を…撃たれたのか。)
血が流れ、身体からは命の限界だと警告を出しているのが分かる。
だが、頭にあるのは妙に冷静な自分。
「…リ…!…ぬ…さ…ない…よ!」
途切れ途切れに聞こえるレティシアの声を聞きながら、沈みゆく意識に全てを任せる。
その時の私が最後に見たのは、ドレスが汚れる事も構わず私の撃たれた傷口を押さえるレティシアの泣きそうな顔だった。
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