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石森side
高校2年の修学旅行の新幹線でクラスの奴らが数人でトランプをしていた。僕はスマホで投稿漫画を読んでいた。
隣のクラスの漫研にいる友達にうちのクラスの鳥飼さんが投稿していると聞いたからだ。僕は鳥飼さんの漫画を漫研で出している同人誌で読んで以来彼女の漫画のファンだ。
そして、鳥飼さんのネタを探してキョトキョトしている姿やネタを思いついてにこにこしている姿が好きだ。
クラスの他の女子みたいに僕に思わせぶりに近づいてこないところも好感がもてる。
彼女を「デカい」だの「ブス」だの言っている奴らはわかってない。
彼女は真面目で、努力家でそして間違いなく才能がある。
メガネの下の好奇心一杯の瞳はいつも輝いている。
「一番負けたやつ、鳥飼に嘘コクな!」
と言っていたグループ。
こっそり、生徒指導の先生に、
「タバコ、ポケットに入ってますよ」とチクっておいた。
すぐさまとっつかまって車内で説教されていた。
トイレに立つと、出たところで鳥飼さんに会った。相変わらず可愛い。
思い切って告白した。意外にも鳥飼さんはすぐOKしてくれた。なぜか、周りをキョロキョロ見ながら何かを探しているような素振りをした。恥ずかしかったのかな?
デートを重ねた。キスをした。それ以上もした。何故かいつもキョロキョロ何かをさがしたり期待したりするみたいな顔をした。
そんな挙動不審も可愛いと思ってしまう。好きだ。ずっとずっと好きだ。
僕の練習に付き合っているうちに彼女はどんどん痩せてしまった。「うっかり」クラスの女子にメガネを壊され、コンタクトにした。
もちろん、僕はちゃんとその女子に反省を促した。二度と彼女に危害を加えないようにきちんと話し合った。ブルブル震えていたなぁ。どうしたんだろ?
彼女が漫画家としてデビューした。デビュー作がアニメ化された。
賞を取ったとき、授賞式でメイクをされ、髪をセットしてドレスを来た彼女はモデル並みに美しくて
「美人すぎる漫画家」と称された。
他の男に取られたらたまったもんじゃない。僕は大学を出てすぐにプロポーズした。
彼女は「私で良ければ!」と即答しながら相変わらずキョロキョロ何かを探しながら、残念そうに、ホッとしたように、複雑な顔をした。
数年後、長男を産んでくれた彼女が
「あのさ、嘘コクだったんだよね?はじめは」
と訳のわからないことを言った。
ウソコク?
わけも分からず「なんのこと?」と聞いたが、数日後、そういえば高校生のとき、クラスのバカどもが彼女に嘘コクをしようと相談していたことを思い出した。
彼女はそのことを知らないはずだけど。
アイツらが彼女を傷つけなくて良かった。
彼女の良さに気づかなくて良かった。
ある日、同窓会のお知らせのハガキが来た。幹事はあのバカどもの中の一人だった。
僕は妻と連名で「欠席」の返事をした。
申し訳ありません。妻の新刊発売日、ならびに第二子出産予定日がこの日ですので。とわざわざ理由を書いてやった。
完
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