どんとこい

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どんとこい

「あんた、嘘コクされるらしいよ。」  高2の冬、修学旅行の新幹線の中でクラスの上位カーストの女子が私に言ってきた。 「嘘コク?」 「罰ゲームでクラスの一番ブスに告白するんだって。隣の車両で男子が話してた。誰がしてくるかはトランプの敗者だって。」 「……くだらない。」  私は読みかけの本をまた読みだした。平静を装っていたけど実は、心臓がバクバクだった。  傷ついたから?いやいや、ちがう。  彼氏いない歴=年齢、当然処女。175センチ80キロの巨体。体格を生かした運動もできない。分厚い眼鏡にひっつめ髪。趣味は漫画を書くこと。  将来漫画家になれるとは思わないけど、漫画は書き続けたい。しかし、いかんせん恋愛に関しては全くの経験値0。  これはチャンスだ!嘘コクでもリアルな男子に言い寄られるんだ。これを私のキャリアにするんだ!さあ、こい!嘘コク!どんとこい、嘘コク!  待ってるのになかなか来ない。これは、私が一人になるチャンスを作らねば!  私は隣の車両との間のトイレに立った。  来ない!おい、いいかげんにしろよ、駅についちゃうじゃないか!  ここは、ほら、ガーッと告白して、(ブス)が調子に乗ってOKして、「お前みたいなのに本気なわけないだろう!」ってやって、告白されてからの失恋という少女マンガのシーンを体感させてくれ!私にリアルな体験をプリーズ!  誰だ?敗者は!とっととこいや!  来ない。  仕方なく、したくもないのにトイレで用を済ませ、手を洗ってドアを開けたら、そこにはクラス1のイケメン石森が立っていた。 「おお、鳥飼!」向かい側の男子トイレから出てきたらしいイケメン。陸上部のエース、トイレから出たばかりでも爽やかだ。トイレでスッキリしたから爽やかなのか? 「……どーも。」うーん、我ながら無愛想。まあ、いつもこんなもんだ。イケメンは私にとって鑑賞用であり、憧れたり好きになる対象ではない。 「あ、あのさ、鳥飼!」 「はい?」 「偶然ここで会えたから言うけどさ、修旅の自由行動、どこに行くか決まってる?」 「三十三間堂に。」 「だ、誰と?」 「いや、特に誰とってことではないですが。漫研の仲間と回るけど、みんな現地に行ったら自由解散」 「一緒に行かない?俺も3人で回ろうかお思ってたら一緒に行く二人が最近カップルになってさ、俺あぶれるんだよね。」 「はぁ……でも石森くんなら一緒に行きたい女子いっぱいいるんじゃないですか?」 「俺は……鳥飼さんと回りたい。」 「へ?」 「俺、ずっと鳥飼さんのこと好きだった。良かったら俺と付き合ってください。」  おお!なんたること!まさかアホ男子たちのくだらない罰ゲームにこの眉目秀麗、智勇兼備、質実剛健、などありとあらゆる褒め言葉の四文字熟語が似合う男が加わっていたのか!  案外子供っぽいんだな、この人も。  この鑑賞に値する男に失恋、マンガのネタとしては十分!サンキュー!嘘コク! 「私で良ければ!!!」  どうだ!ほら!答えたぞ!こい! 「ドッキリでした〜」か? 「信じるなんてどうかしてるんじゃね?」か?  私にリアルを教えてくれ! ……来ない……  お!これはあれだな?修学旅行の最後に種明かしか?  いや、石森、せっかくの修学旅行、もっといい思い出作りなよ。  トランプ、どんだけ負けたんだよ。  京都の街を二人で歩き、湯豆腐をつつき、スイーツを分け合って。  驚いたことに石森はマンガが好きで、私の描いた漫研のマンガも読んだらしい。 「ファンなんだ。」  好きな漫画家や、小説家も似ていて、私たちは楽しく過ごした。  
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