同じ人

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突然の言葉に、手に持っていたカップアイスを投げつけた。 食べながら、歩いていたのだ。 「ちょっ、なにすんの?」 溶けかけたアイスは、香月君の顔から制服にかかった。 「ごめん、ティッシュ」 私は、ポケットからティシュを取り出して拭こうとした。 「(さわ)るな」 手首を掴まれた。 「痛いんだけど」 「悪い」 手を離してくれて、ティッシュを取り上げられた。 「あの公園で、洗った方がいいよ。これ、タオル」 「俺、女に(さわ)られんのも、(さわ)るのも、嫌なんだわ」 香月君は、タオルを私からとって歩き出した。 「どうして?」 「俺、恋愛対象、男だから」 その言葉に、カップアイスのゴミを拾っていた手をとめた。 「同じなの?」 「えっ?」 「だから、同じなのかって聞いてんの」 「あー。そっちも、やっぱりそうなんだな」 私は、カップアイスのゴミを拾って香月君を追いかける。 近くの公園のトイレについていく。 「わざわざ、男子トイレについてくる必要ある?」 「あっ、ごめん」 香月君は、顔や制服からアイスを取っていた。 「しーちゃんは、その人に気持ち言わないの?」 「幼馴染みだから、言いたくない」 「一緒だな」 そう言って、男子トイレから出てきた。 「そっちも、幼馴染み?」 「うん、茶でもおごったるよ」 そう言って、香月君は自販機でミルクティーを二つ買った。 「母親がさ。コーヒーは、まだ早いってゆうんだよ」 そう言って、渡してくる。 「スゲー、過保護でさ。あれすんな、これすんなって。それが、ウザくて男が好きって、去年カミングアウトしたんだ」 香月君は、ベンチを指差して、座ろうと言った。 並んで座る。 香月君は、ミルクティーを開けた。 「母親に、頭の病院に連れていかれて、思春期の勘違いやなんやら言われて、違うって怒鳴りつけたら、気持ち悪いって言い出した。それで、次は弟依存にかわって。俺は、家族にフル無視くらってる。そっちは?」 「母親は、死んで。祖父母の所にいる。母親が死ぬ前に、カミングアウトした。祖父母には、あれと呼ばれている。一緒に、ご飯を食べる人もいない。私にとっての愛は、もう消えた」 香月君は、私の頭を撫でた。 「女は、(さわ)れないのではないのか?」 「何か、しーちゃんは違う。(さわ)れる」 何故か、香月君の言葉に涙が流れた。 「どうした?」 「人は、やはり死ぬのだな」 「何だよ、急に…」 「私は、死の概念がない。この世界からいなくなっても、別の世界で新しい存在として生きていく。母親も父親も、この世界の住人をやめただけに過ぎない。そう思っていたのに…。香月君に()れられたら…。違うのだと思った。やはり、死ぬのだな」 「しーちゃんの、頭ん中。めっちゃ、面白いじゃん。俺、その考えすきだな。それなら、俺の事、理解してくれてた婆ちゃんと爺ちゃんも別の世界で生きてるんだな。ありがとな、しーちゃん」 そう言って、香月君は私の頭をクシャクシャ撫でた。 あーちゃんと母親以外で、私の頭の中を理解してくれる人間がいた事に驚いていた。 「何か、ありがとう」 「いや、別に。あのさ」 「何?」 「卒業文集で、告白しない?好きな相手に」 「構わないよ」 「うまくいくといいな」 「私は、無理だよ」 「俺も、無理だと思うけどね」 「それでも、言わないよりは、言った方がいいよね」 「うん、俺もそう思った。しーちゃんに出会って。そう感じた」 そう言うと、香月君は立ち上がった。 「じゃあ、明日。学校でな」 「うん、バイバイ」 私と香月君は、家に帰った。 まさか、自分と同じような人に出会うなんて。 それが、同じ学校の人なんて そんな偶然がある事に、感謝していた。 帰宅すると、祖父母は寝室にいる。 冷めたご飯を机の上に置かれてる。 電子レンジを使うのが、めんどくさい私は、そのまま流し込む。 そして、シャワーを浴びて、眠る。 この毎日は、卒業するまで続くのだ。
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