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3.免罪符(前半)
起尾の用意していたのは自動運転システムの搭載されていない古い自家用車だった。フェイは後部座席で腕を組んでむっつりした態度を取り、起尾は気にせずに車を運転する。
行く先を一応聞いてみたが、起尾は教えてくれなかった。そういう指示なのか、彼の意思かは判断できなかったが、フェイとしてもこの格好では悪目立ちするので、車輛での移動は願ったり叶ったりだった。
起尾と二人きりというのは非常に不満ではあったが、我慢するように自分に言い聞かせた。万が一のことが起きても、彼一人なら対処できる自信もある。
勿論、油断できる相手ではないが。
「しかし、水汐。随分と腕が立つんだな」
信号待ちになったところで、起尾が口を開く。フェイは窓の外に目を置きながらぶっきらぼうに答える。
「貴方のモラルに期待はしませんが、呼び捨ては止めてください」
「いいじゃないか。俺のことも呼び捨てでいいからさ」
窓に映る自分の顔が不機嫌に歪むのがわかる。一度呼吸を正してからフェイは言った。
「結構です。貴方は道案内だけお願いします」
「つれないね。で? 何でそんな腕が立つんだ?」
「訓練したからですよ」
一応、彼には武器精製の瞬間は見せないようにしたし、分解される場面も目にしていない。特異体質については、話さない方が無難だろう。わざわざ手の内を晒す必要はない。
しかし今夜、あらためて己の才能を目の当たりにして、フェイは思う。自分もまた、今運転している男と同類には違いないのだと。
能力の開花は5歳の時だった。
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