3.免罪符(前半)

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 病気ではなく他人の悪意によって作られた悲劇が晴天の日に降る稲妻のみたく理不尽にやって来た。  殺人という悪意は、フェイの目の前で犯された。彼女が7歳の時だ。  初めて精製した武器は、ナイフだった。激情が彼女の能力を強固に仕上げた。  小さな手に持つ殺意の形を、今でも彼女は覚えている。  「え?」  物思いに耽っていたフェイは起尾の声に反射的に反応した。起尾は運転席から顔を向けてフェイにもう一度呼びかける。  「ほら、着いたぞ」  「あ、ど、どうも」  フェイが車から出ると、目の前には旅館が佇んでいた。  日本古風な佇まいをしているその旅館は、決して大きくはないが高いクオリティを誇り、お忍びで有名人が来ることをフェイも聞いたことがある。  「この中に入ればいいそうだ。後はわかるとよ」  「そうですか。案内ご苦労様です」  フェイは背を向けて中に入ろうとするが、ふと思い立って押尾に振り返った。  「一つ訊いていいですか?」  「おや、おじさんに興味津々か? なんでも答えてやるよ」  押尾の気に入らない態度を無視し、フェイは質問する。  「どうして先程、刀をわざわざ見せたんですか?」  目を細める押尾に、フェイは続ける。  「最初は私に距離を詰めさせない為だと思ったんですが、やっぱり私が間合いに入るまで見せない方が有利だったはずです。どうしてわざわざ見せる真似を?」  押尾から表情が消える。フェイは黙って彼の返答を待ち、中々来ない答えに焦れ始めた所で押尾はそっぽを向いて声を出す。  「俺に勝ったら教えてやるよ。じゃあな」  アクセルを踏むと車を動き出し、さっさと彼は行ってしまう。フェイは訝しんだが気を取り直して旅館の中に入った。
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