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警戒しながら暖簾をくぐると、還暦を超えた一人の老人が立っているのが見える。
紺色のスーツに薄い青のネクタイをしている男は、すっかり白くなったが豊かな髪の毛をナチュラルに七三に分けている。髭のない口元は真一文字に結ばれ、垂れ下がった瞼に覆われ眼からは感情は読み取り辛かった。
「土掘り……」
フェイは男の通称名を呟いた。
土掘り——彼の本名はフェイも知らなかった。ただスコップや土をいじる道具をよく扱っていたことから、仲間内でそう呼ばれていた。
ロウ・ディフェンダーの裏家業をこなす消毒部隊のリーダーでもある。
「久しぶりだな、フェイ」
一拍、間が開いた。
土掘りは元気かどうかを訊くこともなく、ついてくるようにだけ言ってくる。だがフェイは彼を無視して周囲を見渡した。
「血錆は何処ですか? 来ていないんですか?」
土掘りは静かに返答した。
「ああ、彼女は別用で来れなくなった。お前によろしく言うように頼まれたよ」
言い終わると彼は踵を返しもう一度ついて来るように言葉を投げる。今度はフェイも素直に従った。
歩きながら、土掘りは背中で話した。
「今からお前にはある人物に会ってもらう。それから我々——消毒部隊の現状を説明する。一応言うが、受け答えは慎重に行えよ」
「私の態度と返答次第では戦闘になるということですか?」
フェイの乾いた声に土掘りは振り返ることなかったが、一旦足を止めて返答を置いた。
「お前次第だ」
フェイの返答を待たずに彼は歩みを再開する。
その後も土掘りは躊躇うことなく進んでいった。動く気配はなく、人払いは済んでいるようだった。
別館に移動して襖を一つ開き、さらに奥の襖の前で彼は一度膝を降ろした。襖の隙間から光が漏れていて、中からは人の気配がありありと聞こえた。
「羽宮議員、連れてきました」
土掘りが声を張り上げる。フェイに跪くように小さく言ったが、彼女はそんな戯言には応じる気はなく、あくまで動ける体制を整えておいた。
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